9話 第一回神獣会議

 ノルウェル公国の都・アルカデの街。


 僕はエミリカの母親・フレイアさんに呼び出され、街の中央区にあるロココ建築の宮殿に案内されていた。


 宮殿内にある大きな会議室に通されると、僕はテーブルの真ん中に座らされたのだ。



 会議室のような部屋に入ると、テーブルには既に三人が座っていた。


 僕の正面には物腰が柔らかそうな銀髪の女性が、ニコニコと微笑んでいる。


 向かって左には厳格そうな中年の男性が不機嫌そうだ。

 その反対にはテーブルに顔を突っ伏して豪快に寝ている女性。


「この度は急にお呼びだてして申し訳ありません」


「ふん! こちらもいろいろ忙しい身だ。それを呼び立てるのだから、余程緊急性を要するんだろうな、不死鳥の?」


 フレイアさんに悪態をついたのは、中年の男性だった。


「落ち着きなさい、天狼フェンリル殿。まずは不死鳥の話を聞こうではありませんか」


「――ちっ、一角獣ユニコーンか……まあいい、早く用件を言え、不死鳥の」


 ニコニコ笑う女性に諭されたのか、中年の男性は少し大人しくなった。


「……って、今二人が天狼とか一角獣とか言ってませんでしたか、フレイアさん!?」


「何を驚いているのですか、アルテイ殿。今日は神獣の中でもさらに高位種である我々の緊急会議なのです」


「そんな重要だなんて聞いてませんよ!?」


 僕は思わず声を荒げてしまった。


「……ふぁ? なんじゃ、今の驚いたカエルのような声は?」


「ふん、やっと起きたか聖龍エイシェントドラゴンの。相変わらず呑気だな、貴様は」


 聖龍と呼ばれた少女は、天狼のおじさんを見ずに眠気まなこで僕に視線を向けている。


 神獣が四人も集まった会議。

 今からいったい何が行われようとしているんだ。


「天狼殿が落ち着かれたようですので、早速、緊急議題の内容をお話しさせていただきます」


 フレイアさんは最初に四天王グンニグルが倒された事を三人に伝えた。

 聖龍以外の二人は、かなり動揺をしている。


「……あ、ありえん。勇者でも無いものがグンニグルを倒す事など……」


「仰る気持ちはわかります。ですが、不死鳥が嘘をつくとは思えませんね。しかし……」


 神獣の当主二人が僕に疑いの目を向けてくる。


「いい機会です、アルテイ殿。この三人にもあなたのスキルを見せていただけますか?」


「まあそれは構いませんが」


 僕は幾つかのスキルを二人に披露した。


 スキルを目の当たりにした天狼と一角獣の当主達は言葉を失っていた。


「ふふふ、あまりの驚きで声も出ませんか。それで今回の議題で一番重要な話になるのですが……このアルテイ殿を長い間不在だった神獣の王の座に着かせたいと考えております!」


「――なっ!? 神獣の王の座をだと!? ふざけているのか、不死鳥の!」


「冗談なんて言いません。それに残りの六種族の当主達には話は通っております」


「い、いつの間に……残ったオレたちの許可さえ貰えばいいだけか。相変わらず権謀術数が得意だな、ええ、不死鳥の」


「お褒めの言葉だと素直に受けとっておきますよ、天狼殿」


 天狼がフレイアさんに襲いかかるくらい、一触即発の雰囲気だったけど。

 天狼は以外にも大人しく引き下がった。


「それで不死鳥。彼を王座に就かせて自分の娘を嫁がせて、神獣の実権を握りたいとお考えなのでしょ?」


「あら――? よく気づきましたね、一角獣ニードル殿」


「ええ。あなたとの付き合いも長いですし、あなたの考えなんて手に取るようわかりますわよ」


 天狼とよりも、こっちの方が険悪な雰囲気になっている。


「でも甘いですわね、不死鳥! 前もって情報を掴んでいた私に抜かりはありませんわよ! 入って来なさい、ユニ!」


「な、なんですって!? まさかあなたも自分の娘を!? エミリカ! エミリカ!」


 二人して大きな声で人を呼んでいる。


 隣の部屋の入り口が開く。

 そこから姿を見せたのは、エミリカともう一人知らない少女だった。


「せっかく久しぶりに友達に逢えて、いろいろ話をしていたのに……急にどうしたんですか、お母様?」


「そうですぅ。エミちゃんと楽しいお話ししてたのにぃ……」


 エミリカは活発的な健康的な魅力がある。

 それとは反対に、もう一人はおっとりしたお淑やかな雰囲気の少女に見える。


「前も話しをしたと思いますが、あなたはアルテイ殿をどう思いますか?」


「え? どうって……うん嫌いじゃないわよ。わたしもお母様も助けてくれたんだし」


 エミリカは少し恥ずかしそうにして、僕をチラチラとみてくる。


「……くっ! ユニはこの人間をどう思いますか?」


「うぅんと……ユニは少しタイプかなぁ〜。何より穢れていない純情な童貞のようだしぃ。嫌じゃないよぉ」


「ほう。成熟しているように見えたが、この人間は童貞なのか」


 真面目な顔をして、天狼は何て事を言うんだ。


 みんなの視線が僕に向けられて、恥ずかしすぎてこの場にいるのが耐えられない。


「そうかそうか……でわ、ワシもこの男の嫁候補として参加するのじゃ」


「「な!? 聖龍までも!?」」


 フレイアさんとニードルさんが同時に驚くと、聖龍に詰め寄り文句を言っている。


 聖龍は黙って二人の文句を聞いていたが、それを振り払うようにして立ち上がった。


「わしは聖龍のハクアじゃ。お主に興味が湧いたのじゃが、わしもまだ独身だから問題なしじゃろ」


 僕はこうして、嫁候補が三人もできてしまった。

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