12話 快楽殺人者
墳墓第四階層。
迷宮を進んでいた前に、床に倒れ息絶えた男女数十人の死体があった。
持ち物から間違いなく今回試験に参加した冒険者達だ。
「……これは酷いですね」
武器を手にして死んでいる男性や、泣き顔のまま死んでいる女性の姿。
中には抵抗した跡さえなく、一撃で絶命している死体がある事が、僕は気になっていた。
僕は死体の傷を確認すると、ハクアに視線をやった。
「この傷痕は魔獣や魔物じゃ無いみたいですね」
「それは刃で斬られた痕じゃな」
死体全部に共通するのは、同じ武器で斬られた傷痕がある。
「……ちょっと待ちなさいよ。それじゃあ人間が人間を斬ったって事? 何のために人間同士で?」
「まあ落ち着いてくださいよ、エミリカ。まだ敵は人間と決まった訳じゃありませんよ。ゴブリンとかオークの可能性もありませすからね」
「うぅ〜ユニ、ゴブリン汚いから嫌いぃ」
ユニは体を震えさせ、怯えた表情で周囲を見廻しだした。
「まあ、用心に越した事はありません。まだ先は長いですし十分気をつけていきましょう」
「へっへっへ……まあた間抜けな冒険者達がきたぜぇ」
突然、きみが悪い笑い声が聞こえてきた。
通路の角から、手足が妙に長く細身の男が薄ら笑いをしながら姿を覗かせた。
「女だけ置いていけば、命だけは助けてやるぞ……へっへっへ」
今度は背後から背の小さく太めの男だ。
どうやら僕たちは、この二人に前後を塞がれてしまったようだ。
「命は惜しいですが、だからと言って彼女たちを置いていくつもりはありませんよ」
「ぎゃははは! さっきもそう言って格好つけた馬鹿がいたがよ。どうなったか床に転がってるのを見たら分かるよなぁ?」
僕は床に倒れたいる数体の死体に目を向けた。
「……なるほど。この人達を襲ったのはあなた達ですか。理由は何ですか?」
「へっへっへ。俺達は人を殺すのが楽しくて楽しくて、仕方がないんだよ〜」
細身の男は顔を歪ませて、ニヤリと笑った。
太めの男の方はニヤニヤしながら、手にして剣を舌舐めずりしている。
「なるほど。あなた方は快楽殺人者ですね」
「な、何よ。その快楽殺人者って……」
「魔物と戦うだけじゃ飽き足らず、人間までも標的にする連中の事ですよ。この試験に参加して、冒険者を殺して楽しんでいるようですね……」
「……趣味が悪いわね。それにこんな事してギルドの人達にバレたら捕まっちゃうでしょ」
エミリカの言う通りだ。
この手の人たちは、リスクを負ってでも、自分の中に湧き上がる衝動は抑えられないと言う事なのか。
「ここは命がけってギルドも言ってたじゃねえかよ。女を必死で守ろうとして死んだバカの自己責任ってやつだっ! ぎゃははは!」
「な……! 女の子を守った人達をバカですって!」
まずいな。
今の一言で怒ったエミリカの体から立ち昇る赤いオーラが揺らいでいる。
ここで彼女が不死鳥の姿になったら、さらに面倒な事になりかねない。
「エミリカ、落ち着いて。こんなところで変身なんてまずいですよ」
「あ、うん。アルテイ……ごめん。ついね」
エミリカはハッとすると、僕の方を見て謝った。
「あなた達、やってる事が魔族と同じだなんて、少しは恥じた方がいいですよ」
腰の短剣を抜こうした僕の手に、ハクアが手を添えて止めた。
細身の男を見るハクアの表情は、明らかに不機嫌そうだ。
「――まあ待て、アルテイ。こんなムカつく人間はワシが直々に殺してやるのじゃ」
「うん。ユニもこの人達、許せないよぉ」
ユニも不快そうなにして、太めの男を睨んでいる。
「はぁ? お嬢ちゃん達が俺達を殺すだってぇ? へっへっへ。なぁ相棒、どうするよ?」
「どのみち殺す予定だったからな。ま、女共と楽しめないのは残念だがな」
「死んじまいな!」
ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべたまま細身の男は二本の短剣でハクアに襲いかかった。
「ぎゃははは!」
太めの男はゲラゲラと笑いながら長剣でユニに斬りかかる。
「……やれやれ。ワシを相手にしようなど数千年早いのじゃ!」
――カッ!
ハクアの口から撃ち放たれた閃光が、細身の男を消し飛ばす。
「はああ!? な、何だ今の!?」
「よそ見はダメだよぉ」
ユニの額から伸びた角が、太めの男の首を切り落とした。
ぐぎゃ、と断末魔をあげると、太めの男の首は石の床にゴロリと転がる。
「わたし達に喧嘩売ったのが、あんた達の敗北よ」
エミリカは転がった首を冷たく見下ろしていた。
その後。
僕たち四人は、殺された冒険者達の冥福を祈り終えると、再び迷宮を進み始めた。
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