6話 救出なんて造作も無いこと
魔界四天王・魔槍使いグンニグルの居城は、地下を含めた十階層構造の迷宮だ。
この居城の攻略難易度は高く、何人もグンニグル討伐するために挑戦したが、誰一人として戻って来た者はいない。
僕とエミリカは、そんな危険極まりない居城にたった二人で挑んだ。
理由はもちろん、エミリカの母親を救出するためである。
今、僕たちは地下四階の最下層にたどり着いていた。
探索と偵察スキル。さらに転移スキルを駆使すれば、ここまで来ることなんて造作も無いことだ。
「――で、これからどうするの?」
通路の角からエミリカが少し向こうを覗いて、僕に尋ねてきた。
角を抜けた先にいるには、牢獄の
ブラックドラゴンは魔界で生まれ育ったドラゴンだ。
人間にも普通の魔族にも懐く事が決してない危険な生物。
大きな奴で全長百メートルは超える個体も確認された事があると、昔の文献にも記載されている。
僕たちの前にいるドラゴンはせいぜい十数メートルしかない。
こんな狭い空間じゃ、それが限界なんだろう。
「そうですねえ……どうしましょうか?」
「はぁ? あなたが任せろって言うから信じてここまで来たのに……信じられない!」
場を和ませようと微笑んだだけなのに、彼女は小声で思いっきり文句を飛ばしてくる。
「ま、冗談はさておき。ブラックドラゴンくらいなら何とかなりますよ」
「あのねぇブラックドラゴンって普通のドラゴンの何倍も強いのよ? それを――」
「まあ見ていてください。エミリカはそこで隠れていてくださいね。危険なので」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
僕は彼女にそう言い残して、ブラックドラゴンの前に立った。
「やあ、こんにちは。ブラックドラゴンくん」
「ぎゅおおお!」
ドラゴンは口を大きく開けると、最下層の端まで届きそうなくらいの雄叫びを上げた。
侵入者に対しての威嚇ではなく、『殺す』と言う明確な意思を感じさせる雄叫びだ。
「
スキルを発動させて、ブラックドラゴンの戦闘能力を把握する。
名詞:ブラックドラゴン ドラゴン科目
レベル:46
体力:123
筋力:199
防御:201
素早:110
固有スキル:飛翔・腐食ブレス
弱点:聖属性
「なかなか強いようだけど、僕が知るウシガエルほどじゃないよ!」
「ぎゅお!」
ドラゴンは僕に向かって再び口を大きく開けた。
あれはブレス攻撃の準備だと、僕は判断した。
「そんなに慌てなくてもいいよ!
僕はドラゴンが攻撃をするよりも早くスキルを発動させる。
その瞬間――
「……ぐるるる。きゅお〜」
「あはは。ちょっとくすぐったいよ」
喉を鳴らし甘えるように、ドラゴンは大きな頭を僕にの背中に擦り付けてきている。
「ええっと……何が起きたのか、わたしにも分かるように教えてくれないかしら?」
隠れていたエミリカは、警戒したまま僕に向かって歩いてくる。
「ああ、もう危険は無いから大丈夫ですよ」
「大丈夫って……人には決して懐かないブラックドラゴンが?」
「ええ、この子を僕のペットにしただけですので。ちょっと辞めておくれよ」
ドラゴンは構って欲しそうに、鼻先で僕の背中を押している。
「超一級危険生物である魔界のドラゴンが……あなたのペットって……」
僕に甘えるドラゴンを見て、エミリカは呆然としていた。
「エミリカ。そんな事よりも、今はこの奥にいるお母さんを助け出さないと。それにいつまでもここに長居はできませんよ」
「え、ああそうだったわね」
「さ、行きましょう」
彼女はドラゴンの横を恐る恐る通り抜けて、僕と一緒に奥の牢獄へと走っていった。
窓も無く完全に外界と遮断された牢獄の扉は硬く閉じられている。
鍵穴すらも無いし取手も見当たらない。
「ああ、もどかしい! せっかくここまで来たって言うのに……どうやったら開けられるのよ!?」
「まあ、落ち着いてください。僕にかかれば、こんな牢獄を開けるなんて問題ありませんよ……
僕が施錠スキルを使うとすぐに、重く冷たい扉が、ギギギと軋みながらゆっくりと開く。
開いた扉から一人の女性が顔を覗かせる。
「お母様!」
「エ、エミリカ!」
二人は抱き合うとお互いの無事を喜んでいた。
「助けに来てくれた事には感謝します。でもそんな危険な事は辞めて欲しいのですよ、エミリカ……」
「ごめんなさい、お母様。でも、ここまで来るのは危険じゃなかったのよ。彼のおかげでね」
「彼……? あの人間がここまで貴女を連れて来たと言うのですか?」
エミリカの母親は、とても信じられないと言った表情で僕を見ている。
「ここで長話も何ですから。一旦みんなで外に出ましょう。あ、ドラゴンくんも一緒だから安心してくださいね」
「ぎゅお!」
ドラゴンは目を細めて、嬉しそうに鳴いた。
「それもそうね。じゃあ、アルテイ。よろしくお願いね」
「ええ――転移!」
僕たち三人と一匹は居城最下層から消えた。
そして一瞬にしてアルカデの街の近くの平原に姿を現した。
「――お帰りなさいませ、ご主人様」
「ああ、ただいま」
お辞儀をして出迎えてくれたメイドに、僕は笑顔で返事をした。
「……それで人よ。今のも含めて、いろいろと説明していただけるのでしょうね?」
「ええとですね。ちょっと僕、グンニグルの居城に用ができましたので、もう一回行かないといけなくなちゃったんですよ」
僕はそう言いつつ、メイドに視線をやった。
「分かりました。では、ご主人様の代わりにわたくしが説明させて頂きます。ご主人様はご用件をお済ましください」
「ああ、頼んだよ。転移!」
僕はその場から消え、再びグンニグルの居城まで跳んだ。
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