第19話 2020年5月21日
目が覚めると、部屋の中が寒い。最高気温は17℃、最低気温は10℃で、4月並の寒さらしい。昨日に続いてこの天気だと、また寝冷えしそうだ。
「うー、さむさむ」
顔を洗ってダイニングに行く。ここ数日は、父さんも母さんも一緒の事が多い。
「おはよう、佑樹。体調は大丈夫?」
「う、うん。昨日はやっぱりちょっと寝冷えしただけみたい」
「それならいいんだけどね。ほんとに気を付けなさいね」
母さんは母さんで心配してくれていたみたいで、色々申し訳ない気持ちになる。
「そういえば、東京は結局緊急事態宣言解除されないんだって」
「そのようだな。うちも長期戦の構えになりそうだ」
「しばらくテレワーク?」
「少なくとも緊急事態宣言が解除されるまではな」
重い表情で、父さんが言う。各地の状況は良くなってきているみたいだけど、東京は結局、6月1日には、緊急事態宣言を解除しないらしい。中途半端に学校を再開されても不安だけど、緊急事態宣言が解除されないのもやっぱり息が詰まる。
「そう言えば、佑樹。勉強はどうだ?」
「う、うん。時々、ヒナと勉強会はしてるけど、正直、あんまり……」
「無理は言わないが、学校が再開しても遅れないようにしておきなさい」
「うん。わかってる」
そういえば、最近はヒナとのあれこれがあって、そういうことも出来ていなかったし、勉強会をするのもありかもしれない。
部屋に戻って、ヒナにメッセージを打つ。
【ヒナ。今日は、時間ある?】
【大丈夫だけど。何する?】
【勉強会しない?ちょっと、最近やってないところとか】
【いいよ。こっち来る?】
【うん。じゃあ、後で行くよ】
【じゃあ、30分後くらいで。待ってるねー】
というわけで、教科書やノート、タブレットを持って、ヒナの家へ。
「うー。寒いねー。上がって上がってー」
ヒナの部屋に上げてもらう。
「あー。暖かい……」
外から部屋に入ると、エアコンで暖められた部屋の空気にほっとする。
「ほんと、なんで急に寒くなったんだろうね」
ヒナも急激に冷え込んだせいか、暖房を入れたみたいだ。
「さあ。でも、あんまり続くときついよね」
さて。勉強会の準備に取り掛かるとしよう。
「今日は、「情報」をやってみようか」
「私、ちょっと苦手だけど……そうも言ってられないよね」
科目「情報」は、父さんたちが若かった頃にはまだ無かった授業いうことを聞いたことがある。なんでも、コンピュータが普及してきたので、必要になったのだとか。
とりあえず、問題を見てみる。
「「おはよう」の意味を知りたいので、Googleで「おはよう」と検索した。だがしかし、検索結果の上位に「おはよう」に関する動画が出てきてしまった。。検索結果に動画に関する記事を表示させないようにするにはどのように検索すればよいだろうか?理由も含め記述しなさい。」
Googleで、実際に「おはよう」と検索すると、確かに一番上には、歌手が何やら歌っている動画が出てきてしまった。どうも「おはよう」に関係する動画らしい。
「ゆうちゃん。これ、わかる?」
「うーん。確か、Googleで結果を除外する方法があったと思うんだけど」
Googleで「検索結果 除外」で検索してみる。すると、除外したいキーワードの頭に"-"を付ければいいらしいことがわかった。
「どうも、"-"を付ければいいみたい。これだったら、-動画かな」
Googleで検索欄に
「おはよう -動画」
と入れてみる。さっきの動画はヒットしなくなったけど、一番上に「動画」として、複数の動画が出てきてしまっている。うーん。何がまずいんだろう。
「おはよう -youtube」
これでどうだ。動画はYouTubeで公開されているから、これを除外指定すればいいんじゃないかと思ったのだけど、当たりだったみたいだ。
「ゆうちゃん、よくわかるね。どうやったの?」
ヒナが感嘆の声を上げている。なんとなく、検索フレーズを変えてみただけたから、そう言われると、それはそれでばつが悪い。
「いや、なんとなくだよ。まずさ、このヒットする動画ってYouTubeで公開されてるだろ?だから、YouTubeを検索結果から除外すればいいかなって思ったんだ」
「私、全然思いつかなかったよ……」
「僕も、たまたまうまく行っただけだしね。YouTube以外の動画だったらこれでうまく行くかわからないし」
そもそも、これで本当に動画を全て除外できるのだろうか。たまたま、YouTube以外の動画がヒットすることもありそうだし、"-動画"だとしても、動画と一見してわからない動画がヒットするかもしれない。これは、Googleを使って来た勘だけど。
「それに、これってGoogleが検索結果変えたら意味がないと思うんだよね。問題自体が変っていうか……」
Googleが表示を変えたら間違いになる問題に意味があるのか、少し疑問だ。
「ゆうちゃん、よく、そこまで考えられるね」
「そこまで感心されるほどじゃないよ。単によく検索してるから、慣れてるだけ」
これは本心だ。前から思っていたんだけど、「情報」の授業は、ちょっとした事で役に立たなくなる問題が多いような気がしている。
ともあれ、授業で出る以上やるしかないわけで、僕が教師役をしながら、ヒナに色々教えたのだった。
「んー。情報は、難しいねー」
ヒナが唸る。
「難しいっていうか、どうも慣れの問題が多い気がするんだよね」
他の問題も暗記というか、変な問題が多い気がする。
「とりあえず、勉強会はこのくらいにしようか」
あんまり勉強をした気がしないけど、この辺りで切り上げることにする。
「ねえねえ。「あつ森」の続きやろ?」
「いいけど。結婚式の話?」
「そうそう。色々材料とか足りないから集めなきゃ」
というわけで、二人でちまちまと「あつ森」で結婚式をやるために必要なものをそろえる作業に入る。服もそうだけど、飾りつけも含めていっぱいやることがある。
「でもさ、これ、明後日までにできるかな?難しいような」
普段通りのキャラそのままだったら、できそうだけど、ウェディングドレス一式とか全部集めてたら足らないと思う。
「確かにそうかも。でも、集めたところまででやろうよ」
「ヒナがそれでいいなら」
というわけで、間に昼ご飯を交えて、淡々と材料集めや、結婚式に必要なものを買うための金策に勤しむ。
そんな風にゲームに集中していると、あっという間に夜が来ていた。
「あ。もう夜だね……」
「今夜は寒そう……」
窓の外をなんとなく、二人でぼーっと見つめる。
「そろそろ、帰るね」
少し、名残惜しい気持ちはあるけど、立ち上がって帰ろうとしたその時。
「あ、ちょっと待って!」
「どうしたの?……ん」
振り向いたら、唐突にヒナにキスをされた。
「えへへ。それじゃ、また明日ね」
少し赤くなっているヒナが可愛らしい。
「う、うん。また明日」
考えてみれば、僕たちは付き合っているんだから、帰る前にこういうことをしたって不思議じゃないんだよな。
今度は、僕からしてみよう。そんなことを思ったのだった。
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