概要
クローンとAI技術を迎えた2020年。
大昔に逝去した文化人の遺伝子を培養して、クローンとして再誕させる、文化再生産機関に勤める俺の役目は、太宰治生誕百十一年記念の今夏、未完の遺作『グッド・バイ』を完結させることだ。
肝心の太宰治のクローン・仮称“ヨウゾー”は二度目の死を迎えたがっている。俺はとっとと仕事を終えて担当を外れたい。
だから、俺は生前この文豪が求めてやまなかった、ある“報酬”を探すことにした––––
死にたい天才作家の培養脳と、死なれる前に遺作を完成させたい男の、〆切を目前にした夏の駆け引き。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!太宰治、またしても死にそびれる。
AIやプログラムを使って亡くなった人物の人格を再現する。サイバーパンク系の作品では良く見られる設定だ。脳の活動が電気信号によって営まれる以上、コンピューターが進歩すれば人間の精神ですら再現可能だ、というテクノロジーへの期待がそこにはある。本作でも亡くなった人物の人格を再現しようとするのだが、やり方はもうちょっとシンプルでクローン技術を使って、培養層の中で死者と同じ機能を持つ脳を育てようとする……うーんグロテスク。
そして本作で甦らせられるのが太宰治。言わずと知れた文豪である。未完で終わった彼の遺作『グッド・バイ』の続きを書かせようとするのが太宰復活の目論見であるのだが、この太宰、とにかく原…続きを読む - ★★★ Excellent!!!凄い名文を見た。絶対読んだ方がいい。
まず1行目が凄い。なんだそれは! そんなのSF以外には有り得ないし、この冒頭を見て、続きを読まずに引き返せる人なんかいる筈がないじゃないか。
本来ならグロテスクな素材のはずが、それと感じさせないユーモアと、再生された文豪の魅力に引っ張られながら、最後まで一気に連れていかれてしまった。
まるで、何をされたのか分からないぜ!ってやつだ。
きっと、努めて冷静に振る舞う主人公に感情移入するうち、読者の我々もまた同じように文豪の妖力に囚われてしまっているんだと思う。
私なら、そうだな……。完成の暁には玉川上水に流してあげるかも知れない。今の彼なら水の少ない今の川でも十分流れていけるだろうから。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!太宰が好きじゃないすべての人に贈る
私は太宰が好きではない。
作中でも主人公の後輩が言っていただろう。「軟弱な……」と。その軟弱さはどうやら死んでも治らなかったらしい。「馬鹿は死んでも治らない」という良い例ではないだろうか。
主人公は太宰に対して興味のない男である。しかし物語が終盤になるにつれ、「安眠」を妨げた詫びに彼のために何かしてやろう、という気にさえなっているのだ。
太宰は結局、男だろうが女だろうが籠絡してしまう「ひとたらし」であり、人に何かしてもらわないと生きていけない「軟弱」な男である。
そして人は思ってしまうのだ、「彼のために何かしてあげたい」と。
その「太宰治」という男の一端をよく表しているというだけでも私はこの…続きを読む