太宰治、またしても死にそびれる。
- ★★★ Excellent!!!
AIやプログラムを使って亡くなった人物の人格を再現する。サイバーパンク系の作品では良く見られる設定だ。脳の活動が電気信号によって営まれる以上、コンピューターが進歩すれば人間の精神ですら再現可能だ、というテクノロジーへの期待がそこにはある。本作でも亡くなった人物の人格を再現しようとするのだが、やり方はもうちょっとシンプルでクローン技術を使って、培養層の中で死者と同じ機能を持つ脳を育てようとする……うーんグロテスク。
そして本作で甦らせられるのが太宰治。言わずと知れた文豪である。未完で終わった彼の遺作『グッド・バイ』の続きを書かせようとするのが太宰復活の目論見であるのだが、この太宰、とにかく原稿を書こうとしない。それどころか自分の管理をする女性スタッフと心中未遂まで行う始末。
そんな脳だけとなった太宰と彼を担当することになった男性スタッフ(女性スタッフは太宰の心中に巻き込まれてしまうので)の物語。あの手この手で小説を書かせようとする男と決して手(?)を動かさない太宰のやりとりはコミカルで非常に楽しく、脳だけの太宰に振り回されてあれこれ愚痴ってばかりいる男の姿を見ているだけなのに、読んでいる内に人間・太宰治の魅力が伝わってくる内容に仕上がっている。
(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)