第17話 あ〜ん♪

 クレープを食べてる途中に飲み物が欲しくなり、同じフロアにあるカフェでテイクアウトのホットコーヒーを二人分買ってきた。ちなみに俺はミルクのみを入れて、沢渡は以外にもブラックだった。

 そして俺がちょうどカップに口をつけようした時──。


「や、八代君はさ? あの居候の人と付き合ってるわけじゃないんだよね?」

「っ!?」


 沢渡がいきなりこんな事を聞いてくる。

 危なかった……。もしカップに口を付けてたら舌を火傷してたかもしれない。


「そんなわけないだろ。ウチは預かってる立場だからな。けど、ちゃんと家族としては接したいとは思ってるけどな」

「優しいんだね」

「そういう訳でもないんだけどな」


 声をかけた責任ってのもあるけど、それは流石に言えないもんな。


「あの……ね? か、彼女とか作らないの? 今までに欲しいとかは?」

「そりゃあ、人並み程度には欲しいって思うけど、中々なぁ……。でも、もしかしたら出来てたかも? って時はあったかな?」

「……えぇっ!?」

「そんなにびっくりされたら流石に少しショックなんだけど……」

「あ、違うの! そういうのじゃなくて、出来てたかも? って言うのが気になって……」


 あぁなるほど。そっちか。

 話すかどうするか……まぁ話してもいいか。


「実は中学の時にさ、部活の大会中に他校の奴から呼び出しの手紙を貰ったことあるんだよ」

「んんんっ!? そ、そうなんだ……」

「名前も書いてなかったし、持って来たのも敵チームのマネージャーだったから、怪しくて行かなかったんだけどな。渡し方もすげぇぶっきらぼうに「代理だから。しょうがなく持ってきたんだから勘違いしないでよね!」だったし」

「あ、あぁ~。だよねぇ……。普通そう思っちゃうよねぇ。……ちゃんと渡したって言ってたのに……」


 なんて言ったんだ? そんなボソボソッと小さい声で言われると、周りが煩くて最後の方が聞き取りずらいな。まぁいいか。続けよう。


「けど、もしあれがラブレターとかだったら今頃……って考えたりしたことはあるかな? けど、それを五條に言うといつも、「いやぁ、それにしても運命ってすごいな! つーかさ? その子は随分と長いことヘタレなんだな!」って意味不明に爆笑されるんだけどな」

「……へぇ。ヘタレね……ふぅん」


 なんだ? 突然沢渡の顔から笑顔が消えた。かと思うと、カバンからスマホを出して目の前で高速フリック入力が始まる。

 声をかけられる雰囲気ではなかった為、大人しくそれを見守る事にした。

 やがて、沢渡の凄まじい指の動きが止まったかと思うと、いつもの笑顔に戻った。


「送信っと……ふふふ」

「い、いきなりどうしたんだ?」

「ん? なんでもないよ? ただちょっとね……余計な事を言った五條君に、冬子ちゃんから天罰を与えて貰おうと思ってね?」

「そ、そうか……。そういえばオマケで貰ったクレープってどんなのだろうな?」


 よく分からないけど、さっきのセリフに沢渡の逆鱗に触れる部分があったみたいだな。

 五條……どんまい。俺は助けないで話題を逸らすことにするよ。


「あ! 私も気になってたの! 見てみよ?」

「ちょっと待って──これは……ティラミスか?」

「んにゃ~~~~っ! すっごく美味しそう! あのねっ、私ティラミス大好きなの! これが新商品で始まるなら通っちゃいそうだなぁ~」

「そうなんだ。ならちょうど良かった。ほら」

「へ?」

「好きなんだろ? 俺はもうさっきので満足だからさ」

「うん。好き……」


 満足ってのは嘘じゃない。確かに甘いのは好きだけど、ちょっと甘すぎたんだよな……。実は少し胸焼けがしてる。

 そして俺がティラミスのクレープを差し出すと、沢渡は驚きながらも目が輝いていた。

 ただ、俺を見て好きって言うのはやめてくれ。クレープが好きなのはわかってるけど、勘違いしそうになる。


「じゃあ……いただきま~す」


 ──あむっ


「ん、やっぱりおいしっ♪」

「っ!? さ、沢渡!?」

「えっと……な、なにかな?」

「いや……出来れば自分の手で持ってくれると助かるんだが……」


 確かにクレープを差し出したのは俺だけど、それは手渡そうとしただけであって、食べさせようとした訳じゃないんだよ!

 さすがにこれは俺も恥ずかしい……。あ~もうほら、周りの目線も感じるしさ? それに、付き合ってるわけでもないんだから勘弁してくれよ……。


「あっ! そうだよね。つい……。ごめんね?」

「いや、謝ることじゃないけど……」

「お詫びに……はいっ!」

「へ?」


 両手を合わせて謝った後、すぐに俺の手からクレープを受け取ったかと思うと、今度は俺に差し出してくる。


「おいしいから食べてみて?」


 こんな事を言いながら。

 まぁ、一口くらいなら……と思ってクレープを受け取ろうとするけど、何故か沢渡が手を離さない。強く掴めば潰してしまいそうだから、そうも出来ない。


「沢渡?」

「ほ、ほら! 八代君もさっき恥ずかしかったんでしょ? わ、私も今恥ずかしいからおあいこだよ? だから……えっと……あ〜んして?」


 ──参ったな。そんなに顔を真っ赤にして言われたら断われないじゃないかよ……。

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