第23話 そして恋人が出来た俺

 悩んでいる内にあっという間に放課後だ。沢渡はチャイムが鳴るとすぐに教室を出て行く。答えを言うために駅で待ち合わせをした為、今日は一緒に帰らなかった。

 少し遅れて俺も席を立つと、五條も九重が妙にニヤつきながら俺の横を通って教室を出て行く。


 ……あいつら、もしかして前から知ってたな?


 って思うほどにあからさまだった。気づいてなかったのは俺だけって事か。まぁいい。


「……よし」


 答えは既に決めた。俺の気持ちは固まった。

 後はそれを沢渡に伝えるだけ。

 こんなに緊張したのは初めて機体に乗った時以来かもしれないな。


 そして俺は自分自身に気合いを入れると駅に向かって歩き出した。


 ◇◇◇


 駅に近づくと、入口のすぐ側で壁に寄りかかりながらスマホをいじる沢渡の姿が見えた。

 声を掛けようとしたけど、まだ距離があるからもう少し近づいてからにしようと思ったら、突然顔を上げた沢渡と目が合う。


 すると、彼女は柔らかく微笑みながら小さく手を振ってきた。瞬間、何かよく分からないものが胸に込み上げてくる。あぁ、これが──。


「え、えと……やほ? 早かった……ね?」

「いや、待たせて悪いな。答えは決まったよ」

「そ、そうなんだ……。じゃあ……その……とりあえず電車乗ろっか?」

「そうだな。ちょっと行きたい所があるんだけど、いいか?」

「え? うん。いいけど……」


 そして俺は沢渡を連れて改札を通り、いつも乗るのとは違う電車に乗る。


「ねぇ、どこいくの?」

「ん? あ~行けば分かると思うぞ?」

「むぅ? んん〜?」


 考えてもわからないのか、首を傾げながら唸る沢渡。そしてあまり混んでないのに距離が近い……というかほぼくっついている。俺の右腕は沢渡の体に完全に触れていた。さっきから目は合わないが、髪の毛の間からほのかに耳が赤くなっているのが見えるから、まぁ、そういう事なんだろう。

 そんな状態のまま、目的の場所に着いた。


「あれ? ここって?」

「あぁ、俺が中学の時に沢渡からのラブレターを貰い損ねた場所だな」


 ここは俺が沢渡から呼び出しの手紙を貰った場所。市外にある運動公園。今の時期は大会等が無い為に人影は見かけない。


「……その言い方はちょっと悲しくなるんですけどぉ?」

「ごめんごめん。ただ、返事をするならここだと思ってな」

「え?」


 俺はキョトンとする沢渡に向き直り、自分でできる限りの真面目な顔をする。そして……


「沢渡」

「は、ひゃいっ!」


 名前を呼ぶと沢渡も返事をして俺の目を見てくれる。


「今朝告白されてからずっと考えてたんだ。俺にとって沢渡がどんな存在なのかを」

「う、うん……」

「そして気付いたんだ。俺も、いつもどこかに沢渡の姿を探していた事。そしていないと何か気持ちがザワつくことに」

「っ! えと……その……」


 目の前にある沢渡の顔があっという間に真っ赤になっていく。だけど俺はそのまま続けた。


「好きだ。好きなんだ。沢渡、俺の……恋人になってくれないか?」

「はい……はい……私を……あなたの恋人にしてください……」

「これからよろしくな?」


 俺がそう言うと、沢渡は涙を流しながら俺の胸にくっついてきた。


「ふぇぇぇん……。良かったよぉ……。あの日、この場所で八代君に憧れてからずっと、ずっと好きでいて良かったよぉぉぉ……」


 そんな彼女を俺はそっと抱きしめる。


「ひぃんっ!?」

「あ、嫌……だったか?」


 抱き締めた途端に驚くような声を出す沢渡。いきなり過ぎたか? と思って少し手を緩めると、逆に沢渡が俺の背中に手を回して力を込めてきて、そのまま胸元で首をフルフルと振る。


「ううん……嬉しくて。だから……もっとぎゅっとして?」


 その言葉に答えるように、俺は、沢渡を自分の胸に押し付けるかのように抱き締めた。

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恋人ができた俺の事を居候してる美少女が誘惑してくる。「友達」だから大丈夫だと言いながら。 あゆう @kujiayuu

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