第5話 好きな色を教えて

 翌日、俺と一宮の前に母さんが諭吉様を三人程置いた。


「ありがとう」

「……なんでよ。さも当然かのように手を出すの辞めなさい。今ちょっと普通に渡しそうになったじゃない」


 ちっ、自然な感じで動いたのに……。

 今、俺達は少し遅めの朝食中だ。なぜなら俺が中々起きなかったから。

 ちなみに今朝も俺の事を起こしに来たのは一宮だった。

 千秋目覚まし当番にでもなったのか? ただ、頭を揺らすのは辞めてくれ。

 後、胸元が緩い服もな。前屈みになると見えるんだよ。その……色々と。もう少しガードを固めて欲しいもんなんだけど、家にいる時にそんな気を使わせるのも申し訳ないから言えない。

 俺があんまり気にしないで見ないようにすればいいだけだ。……不可抗力で見ちゃうのはノーカウントね? わざわざ覗いたりはしないからさ? ホントだよ?


「で、この金はなんなん?」

「これはね、軍資金よ。千秋に香月ちゃん。今日はこれを持って香月ちゃんの身の回りの物を買ってきなさい。本当は私が行きたかったけどちょっと予定入ったの」

「ふ~ん」


 あ、これ父さんとデートだな。バッチリ化粧してるし。ソファーにもなんか可愛らしい服置いてあるし。……つーかこれ、ちゃんと母さんが免許証とか持ち歩いてないと父さん捕まるんじゃね?


「あ、あの! こんなことして頂かなくても母が後で色々送ってくれるって言ってたので!」

「あら、これはそのお母さんからよ? 今日、生活費として幾らか振り込んでくれたらしいのよ。さっきそうメッセ来たから。ただ、まだ下ろしに行ってないから代わりに私の財布から出しただけよ」


 メッセ!? え? 昨日の今日だぞ? なんなんそのコミュ力。いつの間に交換したんだよ……って俺が寝てる時か。なら知らなくて当然だな。うん。


「てなわけで千秋、香月ちゃんに案内宜しくね?」

「おっけ。ん」


 そう言って俺は手を出す。


「何よその手は」

「小遣いおくれ」

「ちゃっかりしてるわねホント」


 そうして俺も軍資金ゲット!

 飯も食べて準備完了。一宮は昨日洗った服もちゃんと乾いていたみたいで、手持ちのちゃんとサイズの合う服に着替えていた。

 スリムタイプのローライズジーンズにブラウンのニットセーター。髪は花柄のシュシュでサイドテールにしている。ヤバい。可愛い。スタイルの良さが全然隠れていない。俺なんてチノパンにシャツ、着古したジャケットなのに。


「よし、行くか!」

「うん! 今日はよろしくね?」


 さぁ、何はともあれ出発だ。別に恋人ってわけじゃないから釣り合いとか考えてもしょうがないしな。うん、ちょっと良い服でも買おうかなんて考えてない。ちょっとしか。


「とりあえず先に何買いたい? 俺、女が必要なのとかわかんないからさ。言ってくれたらそれがありそうな所に案内するけど?」

「えっと……とりあえずパジャマとか下着が欲しいから、そういうのがある所に行きたいかな?」


 ……最初から難易度高ぇよ! 下着とか言うの辞めてっ! しかし自分で言った事だしな。ちゃんと案内しないと……。


 はい、やって来ましたショッピングモール!

 ここならほとんどの物が揃うだろう。完璧だ。後は時間決めてその時間に待ち合わせすればよし。それまでは俺も服を見てみるか──って思ってたのに、なんでこうなる?


「ねぇ、千秋君はどんな色が好きなの?」

「群青、深緑、赤紫」

「そんな色ここに置いてないよ?」


 知ってるよ。それに別に好きでもないし。

 俺は今、女性物の寝巻き売り場に来ています。

 何故か? それはな? 別行動にしようとしたら、「迷子になっちゃう……」って言われながら袖を掴まれたからです。

 振りほどく勇気は俺には無かった。


 結果、周りは女だらけ。そしてすぐ隣はランジェリーショップという魔の巣窟に俺はただ一人、装備も無しに投げ込まれている状態だ。


 それなのになんださっきの質問は。

 そんなん恋人同士の会話だろぉぉ!! つーか俺達昨日知り合ったばかりなんですけど!?俺の好きな色聞いてどぉすんだよおぉ! 自分の好きな色でいいじゃん! これで俺が「青が好き」とかって答えて「ん~やっぱりピンクかな?」とか言われたらうがぁ! ってなる。かもしれない。


「ねぇ、どの色が良いと思うかな?」

「ん、じゃあその薄い黄色いやつ」

「これ? デザインも可愛いし……じゃあこれにしよっと♪」

「ん」

「次は下着買わなきゃ」



 ……なんですって!?



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 こちら、カクヨムコン応募作品になります。


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