第4話 彼女は視線独占テロリスト

 まさかの年上だったのか……。幼い顔立ちだから同い年か年下だと思ってた。

 そういやさっき高校辞めたって言ってたもんな。ちゃんと考えれば、現在進行形で一年生の俺より下のはずがないか。


 さて、どうしよう? さっき普通に呼び捨てにしちまったんだが、さん付けに直した方がいいのか? けど今更か? う~む……。


「あの……千秋君?」

「む?」


 いきなり呼ばれてダンボールを持とうとしていた俺の手と腰が中腰のまま止まる。なんだこのマヌケなポーズ。ちょっと恥ずかしいのでスッ……としゃがんだ。


「もし、歳の事を気にしてるんだったら、そんな事気にしなくて良いですよ? 呼び方も好きなように呼んでもらっても構いません。私はこの家にお世話になる身ですから」

「お、おう? そうか?」

「はい」


 バ、バレてる!? いや、そりゃそうか。さっきから呼ぶ時に「なぁ」とか、「ちょっと」ばっかりで彼女の名前呼んでないもんな。

 よし、許可も下りたことだし今まで通りのまま呼び方だけ変えよう。


「わかった。じゃあいつも通りにするよ。改めて宜しくな。んで、俺からもお願いがある」

「はい、なんですか?」

「それ。その敬語は無しにしようぜ? これから一緒に住むのに他人行儀で気を使うのも疲れるだろ?」


 朝から晩まで敬語でとか堅苦しくてダメだ。息が詰まる。


「そうですね……あ、じゃなくって……そうだね。改めて宜しくね! 千秋君」

「おっけ。じゃあチャチャッと掃除終わらせちまおう。俺はこっちの重いの運び出すから、一宮はそっちの軽いやつ持ってきて」

「はい! じゃなくって、うん! って結構これ重いね?」

「いや、そんなわけは──」


 その箱には中元とかで貰ったタオルしか入ってないはずなんだけど? そう思って見てみたら何故重いのかわかった。


 持ち上げたダンボールの上に胸が乗ってる。

 えぇ……? 何そのサンドイッチ……。初めて見たんだけど。

 そりゃあ重いだろ! 持ち上げてんのに上からも押されてる様なもんなんだし。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。まぁあれだ。無理はするなよ」


 なんか潰れそうだから。後、目の毒だし。


 さて、とりあえず荷物は廊下に運び出した訳だけど、それだけで割りと汗をかいた。

 次はフローリングを雑巾で拭くんだけど……なんで家にはモップが無いんだ!? それは俺が前に折ったからだ! ちくしょうっ! それさえあればこんな光景を見なくても済んだのに!


 で、そんな光景というのがこちら。

 頑張って雑巾を床に押し付け、四つん這いで俺の隣を駆け抜けていく一宮。

 詳しくは語らないけど、いやぁ~重力ってすごいね。こんな動き方すんのかよ。まるでスライムじゃねぇか! それかプリン!


「雑巾がけさ、後もう少しだから頼んでいいか? 俺はベット持ってくるよ。俺が昔使ってたパイプベッドだけどいい? 壊れてはいないからさ」

「あ、うん全然いいよ。ありがとう!」

「っ! じゃあ行ってくる」


 汗をかきながら笑顔で返事をしてくる一宮。

 その汗のせいでシャツが肌に貼り付いて、体のラインが丸わかりだった。

 しかも俺が渡したのは白いシャツだったから下着もバッチリ透けている。

 あのまま一緒に作業してたら絶対胸とか見ちまうから、俺は逃げる事にした。


 マジか。同棲物のラブコメ主人公とかこんなん耐えてるのか!? どんな精神力してんだよ!

 あ、でも、大体が好意ありきだからいいのか。


 俺と一宮にはお互いそんなの無いし、よその娘を預かってる立場だからそんな事を考えるのもマズイもんな。

 耐性……つくのかちょっと不安になってきたや。ただでさえ顔も可愛いのに。


 その後、綺麗になった部屋にベッドを運んで窓際に設置。窓際に置いた理由は一宮の希望だ。

 なんでも、目覚ましで起きるよりは日の光で起きたいとか。日差しが入ろうとなんだろうと爆睡し続ける俺にはわからん。


 後は一宮が持っていた二つのデカいバックを持ってきて、とりあえず終わりだ。なんか殺風景だな。


「なぁ、服入れるタンスとかどうする? 俺の使ってない引き出し付きのカラーボックスあるけど、とりあえずそれ使うか? ほら、女子だし見られたくないのとかあるだろうし」

「う、うん……貸してくれたら嬉しいかも。やっぱり下着とかをそのまま置いてるのは、見られるの恥ずかしいし……」


 顔を赤くしながらそんなことを言う。指先で髪をクルンクルンしながら。

 いやいやいや! 今現在透けて見えてんだけど!? え、何? 本人は気付かないものなの!?

 後、敢えてぼかして言ったのにストレートに下着とか言わないで! 変に意識したらどうすんだ!? しないけど! 鋼の意思で耐えるけど!


「わかった。持ってくる」

「ありがとね。後、服とか小物とかは私のお母さんがこっそり送ってくれるみたいなの。それが届いたらこの部屋ももっと可愛くなると思うんだぁ」

「早く届くといいな。さすがにこのままじゃ寂しいし」

「うん。でも、今の私にはこれがあれば十分なの!」


 一宮はそう言ってバックの中からノートパソコンを出してジャーン! と俺に見せてきた。


「パソコン?」

「そう。これには私が今までに書いてきた小説や、今書いてる小説が入ってるの。自分の子供みたいなものなんだぁ~」


 そう言ってノートパソコンを抱き締めて微笑む一宮の姿は、ホントに小説が好きなんだなぁって確信するには十分すぎる姿だった。

 それと同時に、人生かけてそれだけ夢中になれる物があるのは少し羨ましく感じた。



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 こちら、カクヨムコン応募作品になります。


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