第8話 アピール作戦! しかし返り討ち!
俺はウキウキしながら学校へと向かう。早く昼休みにならないか? アイツらの驚く顔が楽しみだな。
ただ悲しいことに、彼女とかから貰った物では無いって事なんだよな……。ただの同居人の手伝いの産物。歳だけで考えれば姉みたいなものか。なんか虚しくなってきた。いやでも! 女の子の手作りと言うことだけは間違いなく真実! よし、持ち直した。
そんな事を考えている内に駅に着いた。改札を通ってホームでベンチに座ってスマホを弄りながら待っていると、隣の椅子に誰か座ったみたいだ。俺は邪魔にならないように組んでいた足を下ろす。
「や、八代君、おはよ~」
「ん? 誰かと思ったら沢渡か。おはよう」
「うん。ひ、久しぶりだね? 朝一緒になるの」
「そういえばそうだな。沢渡はいつも九重と一緒に、もう二本早い時間のに乗ってなかったか?」
「い、いつもはそうなんだけどね? 今日はちょっとだけ寝坊しちゃってその……ね? それでね? あのね? や、八代君はいつもこの時間なの?」
寝坊したのか。優等生のイメージがあったからちょっと意外だな。今まで寝坊したとか聞いた事無かったし。
しかしすげぇいい匂いすんだけど、これ沢渡だよな? シャンプー? 香水? なんだろ? まいっか。
「そうだな。もう一本早くすると混んでるし、二本早くすると起きれないし、だからといって一本遅らせると遅刻ギリギリになるからな。この時間が俺にはちょうどいい感じだ」
「そ、そうなんだ。私も同じ時間に……しちゃおう……かな?」
「いいんじゃないか? 一緒に行くか? あ、でも九重は?」
「うんっ! 一緒に行くっ! 冬子ちゃんは五條君と一緒に行くって昨日言ってたから全然大丈夫! ……やたっ!」
「昨日?」
「あ、えと、なんでもないよ? 気にしないで?」
なんでもないのか。なら聞くのもな……。
ちなみに五條ってのが俺の友達で九重の彼氏だ。【
「にしても沢渡は朝弱かったんだな」
「あ、あはは……。(そうじゃないの! そうじゃないのぉぉ~)」
「ん? どうした?」
「な、なんでもないよっ!?」
そんな話をしているとベルが鳴り、電車が目の前に停まった。扉が開き、人が出たり入ったり。しかも今日はなんか人が多い。
俺達二人も急いで乗り込むけど、少しタイミングを逃したせいか椅子に座る事が出来ず、扉の近くに立つ羽目になった。
いや、しかし人が多いな。満員じゃねぇか。なんでだ? こんな混むこと滅多にないのに。
すると、その理由は直後に流れたアナウンスで分かった。どうやらちょっとしたトラブルで他の線が止まり、その分がこっちに流れてきたみたいだ。
つーかマズイな。このままだと沢渡が潰れてしまう。しょうがない。頼むぞ? 嫌がらないでくれよ? そう願いながら俺は沢渡の方に向き直った。
「沢渡、悪い」
「え?」
俺は沢渡と真正面から向き合うと、その小さな顔の横を通して後ろの扉に両手を付いて肘を伸ばす。
これで自分の体を支えられるからこの中にいる沢渡は大丈夫のはずだ。
「あ、あっ! これ……私今、壁ドンされてるぅ……はぅ……」
おいおい、顔真っ赤じゃねぇか。大丈夫かよ。
と思ったけど俺が大丈夫じゃなかった。思ったよりも背中にかかる圧力が強い。
あ、これ無理だ……。
「きゃっ」
「ごめん。押された」
後からの圧に耐えきれず、扉に付いていたはずの掌は肘に変わり、沢渡との距離が近くなる。体は密着に近くなり、横を向けばすぐ近くに沢渡の顔がある。
うわ、女の子の体やわらけ。それにあのいい匂いはやっぱりシャンプーか。ってそうじゃない! どうにか言い訳しないと!
「沢渡悪いな。着くまでの辛抱だから嫌かもしんないけど耐えてくれ。お前を潰さないように頑張るから」
「ううん……全然……大丈夫だよ……」
良かった。これでキモいとか臭いとか言われたら俺は土下座案件だった。
そしてその時、また少し押される。今度は横から。そのせいで顔同士が少し近くなった。
「大丈夫か?」
「ふわぁぁっ!」
「ど、どうした?」
「み、耳元で囁かないでぇ……。力抜けちゃうよぉ」
「ご、ごめん」
「んっ! み、耳に八代君の息が……んんっ!」
急に沢渡が力抜けしたように俺にもたれかかってくる。
そして、苦しいのかと思ってつい顔を向けたのが失敗だった。
「おい沢渡、大丈──んむっ」
ちゅっ
と、俺の唇が何かに触れた。そこにあったのは沢渡の頬。
んがぁぁぁぁぁっ! 俺、何しちゃってんの!? ヤバい! 怒られるっ!
「ご、ごめん沢渡!」
急いで顔を離して謝る。だけど返事は無く、沢渡は顔を耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆いながらボソボソと呟いていた。
「ほっぺに……ほっぺにちゅうされちゃった……。ほっぺに……ちゅう……ちゅう……私、もう……ダメ……死んじゃう。んん~~っ!!!」
ちょっ! そんな首を振るなって!
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