第2話 湯上がりの君はとても……
布団の中に潜って丸くなってる俺を誰かが揺らす。しかも頭を掴んで。
完全に潜ってるから、どこを揺らしているのかがわからないんだろな。とりあえず吐くから止めて。
「ち、千秋君? お母さんが起きてって言ってますよ?」
……ん? つーか誰だ? 母さんじゃない?
ウチには妹も姉も義妹も義姉も親が決めた許嫁とかもいないはずだぞ?
「千秋くん。 起きてください?」
「誰だ貴様は!?」
俺は布団をバサァっ! ──とはやらずに、潜ったままで俺を嘔吐へと導く奴に問いかける。
するとようやく揺れが収まった。だがもう遅い。 おろろろん。いや、嘘だけど。
「私ですよ! 昨日助けてくれたじゃないですか。一宮です。一宮 香月」
「ん、んん~? ……あぁ! 行き倒れの!」
「そ、その覚え方はちょっと……」
布団から顔だけ出して声のする方に向けると、見たことあるパジャマを来た美少女がいた。前屈みになりながら、片手で髪を耳にかけながらこっちを見ている。
そうだったな。着るのがなくて母さんがお古のパジャマを貸してたんだった。胸のサイズが違いすぎてパツンパツンだけど。あ、谷間見えた。ついでに下着も少し。ほう、青か……。
それにしても……最初に見た時は髪もボッサボサで顔も青ざめていたけど、まさか風呂から上がったら驚きの美少女になるとは……。
「ふふ、なんだか亀さんみたいで可愛い♪」
おい、そんな顔で微笑むな。うっかりときめいたらどうしてくれる。
◇◇◇
少し話を戻すぞ。
あれから俺は、この【一宮 香月】って名乗る子を家に案内した。
家に行く途中は終始無言で特に話さなかったから、名前しか情報がない。唯一分かったのは、178センチの俺の肩ぐらいの背って事くらい。だから大体160無いくらいか?
んで、玄関を開けるとそこには仁王立ちして腕を組んでいる俺の母さん。早速事情を聞いたりするのかと思いきや、彼女の手を掴むと有無を言わさずにキッチンに連れていく。
テーブルの上にはしっかりと三人分の夕飯の支度がされていた。俺と母さんと、恐らくは彼女の為の分も。
ちなみに父さんの分はない。元々いないとか、亡くなったとか単身赴任とかじゃなくて、飲みに行ってていない。まぁ、いつもの事だ。帰って来るのは夜中か朝方だろうな。
「あ、千秋おかえり」
「今頃!?」
「いいからあんたも早く座りなさい。ほら、えっと……香月ちゃんだったわね。香月ちゃんも座って?」
そう言いながら彼女を椅子に座らせて母さんも座る。俺も座ると、母さんは手を合わせてこう言った。
「お腹すいたでしょう? まずは温かいご飯を食べなさい。話はそれからよ」
すると彼女は俯いたままで小さく頷く。
「うんうん。それじゃあいただきま──」
「なぁ、うがいと手洗いは?」
「……ちっ」
舌打ち!? それになんで睨むんだよ。大事だろ? うがいと手洗い。外から帰ってきたんだしさ? ねぇ?
そりゃあちょっといい感じの空気で、気合い入れていただきます! って言おうとしてたのはわかるけどさ。
「……千秋、洗面台まで案内してあげて。コップはとりあえず紙コップがそこの引き出しにあるから、ソレ持っていきなさい」
「へ~い」
そして二人ともうがいと手洗いを済ませてからキッチンに戻ると、再び椅子に座る。
さっきまでのホームドラマみたいな雰囲気はすでに無惨に霧散していた。
「じゃあ食べましょ。好きなの何でもどれだけ食べていいからね」
「いただきまーす! ほら、食えって上手いから」
「……ありがとうございます。いただきます」
最初は遠慮がちにちょびちょびと食べていた。だけど、余程腹が減っていたのか、「美味しいです。美味しいです」の言葉と共に、ドラマみたいに泣くこともなく、どんどんオカズが減っていく。そして俺も腹減ってたからどんどん食べる。結果、テーブルの上に用意されていた物は綺麗に無くなった。ケプ。
父さんの分? 母さんは「そんなのないわよ。飲みに行ってんだから」って言ってたけど、俺は知っている。ハートの形の器にいつもキープしている事を。母親のツンデレとか誰得だよ。
「さ、お腹も少し落ち着いたかしら? お風呂湧いてるから入っちゃいなさい。こっちよ。シャンプーとか教えるから」
「え、あの……」
食事が終わって少し時間が経った頃、母さんは問答無用で彼女を風呂場に連れて行った。
それと同時に俺も立ち上がる。
「千秋、あんた何するつもり? 覗こうとしてんの?」
「違うわっ! トイレだっつーの!」
たまたま重なっただけなのになんつー親だ。
ちなみにトイレは脱衣場の隣。
用を足して廊下に出るとこんな声が聞こえてくる。
「シャンプーとかボディーソープは今説明した通りね。着替えなんだけど……香月ちゃん、あなた胸大きいのね。私のじゃ収まらないわ……。あ、下着の替えと普段着は一応あるのね。じゃあ持ってたバッグを置いておくから。それでパジャマは……ないのね。とりあえず私のお古を用意しておくからそれで我慢してくれる? じゃあしっかり肩まで浸かって温まるのよ?」
おばさん特有の怒涛の口撃が終わると、母さんが廊下に出てきた──
「ちょうど良かった。あんな香月ちゃんのバッグ持ってき──やっぱ私が持ってくるわ。わざわざラッキースケベのチャンスをやる訳にはいかないものね……」
と思えば、そんな事を言って立ち去って行った。……なんでなんもしてないのにディスられなきゃならんのだ。
そして俺がメンタルブレイクしてる時、脱衣場の扉の向こうから声が聞こえる。いや、声じゃないな。これは嗚咽だ。
『うっ……ヒック……うぅぅ……ふぇ……』
……。あれだな。きっとシャンプーでも目に入ったんだろう。そうに違いない。だから俺は扉に向かい、
「安心しろ。安心して甘えとけ。母さんもあぁ言ってるし、俺達で出来る範囲でなら頼ればいい」
これだけ言って離れた。
『あ、あり……ありがとぅ……』
ん? なんか言ったっけ? 聞こえない聞こえない。さて、次は俺が入るから着替えでも準備しますかね。
◇◇◇
彼女が風呂に入ってから、母さんに言われて俺の隣の使ってない部屋に彼女用に布団を用意した。その後、俺がリビングで母さんとテレビを見ていると後ろから声がした。
「あの……お風呂ありがとうございました……」
「ちゃんと温まった? ってちょっと! あら、あららららら!」
どんだけ噛んでんだよ。それとも巻舌の練習か? 俺、今ちょっとこのクイズの答え考えるので必死なんだけど。
「髪とかボサボサで隠れてたけど、綺麗……ってよりは凄く可愛いじゃない!」
「そんな……」
なんですとっ!?
俺はクイズの答えなんかそっちのけですぐに振り向く。
……っ! まじか……。
そこにいたのは美少女。
肩より少しある程度の綺麗なセミロングの黒髪。おそらく泣いたせいで少し赤くなったであろう目は大きく、小さな唇。そして白い肌。頬は風呂上がりだからだろうけど、僅かに赤く染まっている。そして母さんのお古のヒマワリ柄のパジャマを着ているんだが、豊かな胸のせいで胸元が押し上げられて少しお腹が見えていた。しかもボタンが上から二つほど留められていない。しょうがないか。母さんちっちゃいからな。
にしても……目のやり場に困るな。
だから俺は逃げる。
「あ、うん。確かに可愛い。つーわけで俺は風呂いってきまっす」
ちなみに俺が風呂から上がると彼女はすでに寝ていた。母さんが言うには、体力的にも精神的にも疲れてたから早めに休ませたそうだ。布団に入るとすぐに寝息を立てたらしい。
俺も見たい番組を見ると部屋に向かう。
その時に、「覗くんじゃないわよ?」って言われた。そんな事しません。
そしてベットに入ってスマホいじる。日付が変わって少し経った頃、俺の意識は惰眠へと落ちていった。
◇◇◇
で、現在この状況ってわけだ。
と、とりあえず部屋から出てくれないかな? 起きるに起きれないんだけども……。
後、ちょっと見すぎじゃない?
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カクヨムコン応募作品になります。
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