第11話 ライバル
俺を呼ぶ声の主は一宮だった。
黒のレギンスに丈が膝上まであるセーターを着ている。
そして片手にスマホ。もう片手にはカップに入った、つぶつぶ入りのカフェラテのような物を持っている。あれ、タピオカか? 俺はちょっと苦手なんだよな。コンニャクみたいで。
ていうかその格好さ、確かに今日はそんなに寒くないけど、せめてもう一枚上から羽織って欲しいと思う。
体のラインが出る服だけはちょっとな。
ただでさえ最近、変質者が出てるような事も回覧板に書いてあるって母さんが言っていたし。後でそれとなく忠告しておくか。狙われてもおかしくない見た目とスタイルだからな。
「一宮か。なんでここに?」
「ちょっとこの辺の道を覚える為に散歩中なんだよね。それで、君のお母さんからいつもこの位の時間に帰ってくるって聞いたから、ついでにお迎えにきました! って感じかな?」
「なるほどね」
そこで沢渡が俺の袖を引っ張りながら小声でこんな事を聞いてきた。
「ね、ねぇ八代君。その人がもしかして……例の?」
「ん? あぁ、そうだよ。こいつが昼に言ってた居候だな」
「ほ、本当に可愛くて胸大きいよぉ……」
同性でもそう思うのか。だけど沢渡。びっくりしたような顔をしているけど、お前が言うとちょっと嫌味に聞こえる奴もいるかもしれないから、少し気をつけた方が良いかもな。だってさ……
「胸はともかく、沢渡だって可愛いじゃん」
「……へ? か、かわっ!? え、八代君はそう思ってくれてるの?」
「ん? うん。だって結構告白とかされてるだろ? それに俺目線ではだけども、クラスでも一番可愛いんじゃないか?」
「えへ、えへへへ……。八代君ってば何言ってるのよもうっ! もうっ! ……ふへ♪」
痛いって。叩くな引っ張るな。
ふぅ、どうやら機嫌は良くなったようだ。ただ、胸はともかくって言った部分は聞こえてないようだけども。
そんな俺達の事を一宮はじっと見ている。いや、俺達じゃないな。沢渡の事を見ている。
「ねぇ千秋君、その子は彼女? それとも、ただの友達?」
「あぁ、紹介するよ。この子は沢渡 七海。俺のクラスメイトだ」
「う~ん。そういう答え方かぁ……」
なんだ? 答え方になんか正解でもあるのか?
よくわからん。
すると沢渡が俺の真横から少し前に出るとこんな事を言う。
「はじめまして。沢渡 七海です。や、八代君とは、とても仲良くさせて貰ってます」
「こちらこそはじめまして。一宮 香月です。私も千秋君には毎日色々とお世話になってるんです」
「ま、毎日とかズルいぃぃ……」
お前らなんで時々声量が増すんだ? 確かに沢渡とは仲良くしてるとは思うし、一宮は預かってる大事な客人みたいなもんだから世話はしてるけどさ。ズルいってなんだよ。
俺がそんな二人を見ていると、一宮が手に持っていたスマホをレギンスのポケットに入れ、タピオカが入ってるカップを何故か胸の上に乗せながら胸の下で腕を組んだ。そしてそのままの姿で飲んでいる。なんだこれ。
「ああっ!?」
「ふふ、これ飲むのラクなんだよね。胸も支えられるし」
「こ、この前冬子ちゃんにも見せつけられたばっかりなのにっ!」
……九重。お前何してんの。そしてそれは一宮もだ。確かにそれは胸が大きいアピールになるし、つい見てしまいそうになるけどさ? だけど──
「なぁ一宮。道端でそんな事やってるとアホみたいだぞ。そういうのは好きな男の前でとかやれよ」
「んあっ!? ア、アホって……う、うん、辞める……」
一宮は改めてカップを手に持ち直した。それを見た沢渡は小さくガッツポーズをしている。
なんで初対面でそんな仲悪くなってんだよ……。
ってそれどころじゃないな。
「そういえば、一宮のお袋さんはまだいるのか? それとも帰った?」
「え? まだいるよ。なんか千秋君のお母さんと話が盛り上がっちゃって暇になったから外に出てきたんだもの」
「そうか。ならすぐ帰るぞ。ちゃんと挨拶しないとな。大事な娘を預かるんだし、俺っていう男もいるんだからきっと心配するだろ? だからちゃんと、娘さんには一切手を出したりしないって事を伝えておかないと」
もし、俺が親だったら絶対にそこは心配するだろうしな。とりあえず言葉だけでも伝える事はしないとダメだろう。
「ええっ!? い、いやぁ……別にそこまで言わなくてもいいと思うんだけどなぁ……? むしろ手を出してもいいんじゃないかと……」
「は? 何言ってんだ? そんな訳ないだろ」
「そうそう! そうだよ八代君! 絶対に向こうのお母さんは心配すると思うから、そこはちゃんと言わないとだよっ! 帰りに電車で教えた事も気をつければ完璧だと思うの!」
「なっ! ちょっ!」
ほらな? 同じ女子の沢渡もそう言ってんじゃん。
「だよな? よし、帰るぞ一宮。沢渡もまた明日な。朝の約束通り、今日と同じ時間に駅に行くから」
「うん、待ってる! 八代君またね♪ 一宮さんもさようなら!」
「あ、ちょっと待ってよ千秋君! 沢渡さんさようなら。今度、もし、機会があったら、ぜひ一緒にご飯とかどうかな?」
「はい、機会があれば」
「「フフフフフ」」
なんだ。仲良くなってんじゃん。
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