第18話 内緒のラクガキ

 俺達はクレープを食べた後、八階にあるアミューズメントエリアにやってきた。特に何か目的があった訳じゃないけど、沢渡が行きたいって言ったからだ。

 そして俺は今、自分の目にうつる光景に驚愕していた。


 タンッタタタタンッタタンタンタタタン♪


 音楽と共に上からスライドしてくるマークに合わせて、叩いたり長く押さえたりするゲーム。いわゆる音ゲーってやつだな。

 それを沢渡がやってる訳なんだが……。

 とんでもなく早い。しかも、画面にはずっとパーフェクトの文字ばかりが表示され、コンボも途切れることも無い。いや、ほんと凄いな。


 そして曲が終わると、満足そうな顔で振り向いた。


「やった! SSS取れたぁ! 八代君どう? 凄いでしょ~?」

「あぁ、ホントにすごいな」

「へへ、その二つは学校でも結構褒められるんだよね♪」

「あぁ、シュミレーターのやつか?」

「そうそう!」


 俺達が住んでる国では、高校からシュミレーターや訓練用機体で戦闘訓練をする。

 それは何故かというと、現在のこの世界中では、なんやかんやあって色々なところで小規模な戦争が起きているからだ。その主戦力になっているのが、【ディートヴィレ】という十三メートル程の人型機動兵器。国によって色々なカスタムがされて、姿形が多少変わりはするけど基本はその機体になる。

 そして今は小規模だが、いつそれが大きなものになるかが分からない為、咄嗟の時にすぐ扱えるように訓練しているのだ。とは言っても、その訓練はそんなに頻繁ではなく、週に一~二回程度だけどな。


「そういえば、明日は姿勢制御の訓練だったよな? 初めて本物のコクピットに乗るけど、大丈夫そうか?」

「う~ん? どうかなぁ? そればっかりは乗ってみないとわからないかな? 八代君は?」

「ん? 俺もそんな感じだな」

「ふふっ! と、ところでさ?」

「どうした?」

「プリクラ……撮らない?」


 上目遣いで袖を掴まれながらそんな事を言われて断れるわけがないだろう? 今まで沢渡からこんな事を言われることはなかった。ホントにさ……勘違いしてしまいそうだよ。


 で、撮ったさ。撮ったよ。機械から色んなポーズを要求されたけど全部無視して棒立ちでだけどな。そして落書き? そんなのわかるわけが無い。だって今日初めて撮ったからな。だからそこら辺は沢渡に任せた。


「八代君、出来たよ~♪」


 そう言って沢渡がプリントされたシールを二人分に分けて持ってくる。俺の分を渡されて見てみると、簡単に日付やクレープを食べた事が書いてあるだけ。

 なんだ、この程度で良かったんだな。結構書くのに時間かかった割にはシンプルなんだな……って──あれ?


「なぁ、三回目に撮ったやつが無いぞ? あの顔だけで撮ったやつ」

「ふえっ!? そ、それは……えっとぉ……ちょ、ちょっとね? 私のね? 写りが悪かったからダメかなぁ~? ってね?」

「そうなのか? まぁいいけど」

「うんうん! 気にしない気にしない! それよりもそろそろ電車の時間だよ?」

「もうそんな時間か。じゃあ行くか」

「うん♪ ──流石にハートでデコったのは見せれないもんね……」

「ん? どうした?」

「なんでもないなんでもない! ほら、エレベーター空いてるから行こ?」


 そう言う沢渡に背中を押されて俺達はエレベーターに乗り、一階まで降りるとそのままほーむへと向かった。


 ◇◇◇


 その後、いつもの駅で降りて改札から出ると、やけに沢渡がキョロキョロしている。


「どうしたんだ?」

「今日はいないかなぁ? って思って……」

「いないかな? ……あぁ、一宮か? あいつは今日はいないぞ。部屋に置く物とか買いに行くって言ってたからな」

「そ、そうなんだ。──よしっ、今日こそは……や、八代君っ! あ、あの──」



 沢渡が何かを言おうとした時、彼女の背後、西の方の空が明るくなった。そして少し遅れて小さくだけど爆発音がする。


「ほえっ!? な、なに!?」


 ビクッとした沢渡が俺のすぐ側に寄ってきた。

 俺と向かい合っていた為、光は見えてないようだ。


「今日はちょっと近くで小競り合いが起きてるみたいだな。念の為に今日はもう帰ろう。何年も大きな戦闘にはなってないみたいだけど、何があるかわからないし」

「うぅ~! また邪魔されたぁぁぁ! いつもこうだよぅ! もうっ! もうっ!」


 両手を握ったままで上下にブンブンと振り回しながら、沢渡は非常に憤慨している。

 その時、スマホが入ってる方ポケットの中が震える。

 俺は画面を見ないまま沢渡の方を向いた。


「沢渡、俺はちょっと用事思い出したから送っていけないけど、気をつけて帰れよ? 心配だから家に着いたらメッセ入れてくれ。じゃあな」

「え? あ、心配してくれた……。うん、絶対メッセ入れとくから! また明日ね」


 沢渡が家がある方に向けて歩き出したのを確認すると、俺は自宅に向けて走り出す。

 それと同時にポケットから、ずっと鳴動し続けているスマホによく似たデバイスを取り出すと、通話マークをタップした。


『チアキ、ちょっとあんたも手伝って。今日はちょっと数多いから』

「わかった」

『トレーラーはもうそっちに向かってるから』

「……早いな。俺が断る可能性は?」

『ボーナス出るわよ?』

「任せろ!」


 通話を切り、今度はスマホを出して、母さんに『ちょっとバイト入った』とだけメール。返事はすぐに来た。『気を付けなさいよ?』と。

 これでよし。

 家に着くと、外の倉庫からポケバイを出してエンジンをかける。そしてヘルメットを被るとすぐに走り出す。

 トレーラーの位置はさっきGPSで確認してある。ここからだと……あの辺りか。


 予想した合流ポイントに行くと、ちょうど目の前をいつものトレーラーが走っている。俺を見つけたのか、すぐに荷台の扉が開くとゲタが降りてきて、俺がその上に乗るとすぐにポケバイの車輪がロックされ、ゲタが上がり、それと同時に扉が閉まる。


 薄暗い荷台の中で横になっているディートヴィレを見上げると、俺はすぐにコクピットに乗り込んだ。


「さて……」


 俺はスマホ型デバイスを中央のスロットに差し込む。瞬間、そのスロットを中心に赤いラインがコクピット中に走り、五つある大きなモニターと、一つだけある小さなサブモニターの、全てのモニターに光が灯る。

 様々な確認事項が出るが、それらは全てオールクリア。ウチのメカニックは優秀だからな。

 そして、操作レバーに手をかけたところで声がする。右端にある小さなモニターにはsound only(サウンドオンリー)の文字。


『早かったじゃない』

「急いだからな」

『さすがね。では簡単に状況説明ね。敵は十一機。応援が遅れててこっちが押され気味。後は……チアキ、分かるわね?』

「わかった。ただちに撃ち貫く」

『よろしい。では、【特殊機動三課所属。ディートヴィレ砲撃カスタム。ディートヴィレ・クーゲルの起動を許可します】』

「了解」


 トレーラーの荷台が開き、夕日が差し込んでくる。それに合わせて操作レバーを引くと、静かな駆動音と共に、機体が戦いの準備を始めた。


 さて、バイト開始だ。



 こちら、カクヨムコン応募作品になります。


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