第12話 計画の破綻と焦り
「ねぇ千秋君、待ってよ」
「どうした? そんなに早く歩いてるつもりはないぞ?」
「そうじゃなくって、さっきの沢渡さん? あの子が言ってた電車での~って何の事?」
あぁ。それか。そうだな。一宮にも気をつけて貰わないといけない部分もあるんだから言っておくか。
「えっとな、女子と暮らすなら気をつけておくべき事を色々聞いたんだ。相手が薄着でもむやみやたらと見ないようにするとか、風呂場と脱衣場には鍵を付けておくとか。あ、各自の部屋にもな。あとは入浴中の札を入り口にぶら下げておくとかな」
「な、な、なんて事をあの子は千秋君に吹き込んでるの!?」
何故か驚愕したような顔になって足が止まる一宮。俺は変わらずに歩いていたから、二人の間に少し距離が出来る。
「どうしよう……。考えてた計画がほとんど出来なくなっちゃうじゃないの。この前一緒に買った服とかもワザと胸元空いたのとか選んだのに。お風呂だってちょっと恥ずかしいけど、タオルが無いフリして呼んで、そのタイミングで下着姿だけで待ってたりとかも出来なくなっちゃう? 千秋君がお風呂入ってるのに気づかないフリして突入とかも出来ないじゃない! どうしよう? 今書いてるのラブコメなのに、鉄板ネタが封じられてる!? ううん。ネタとか関係なしに、私の事意識して欲しいのにこれじゃあ……。きっとあの子も千秋君の事……」
一宮は立ち止まったままでボソボソと呟き、中々歩き出そうとしない。他にも気を付ける事が無いかとか考えてたりするのか?
悪いけど、それは家に帰ってから考えて欲しい。俺も案を出すのには付き合うから。
「なにしてるんだ? 先に行くぞ?」
「あ、待ってよ~」
◇◇◇
玄関に入ると、母さんの靴ではない女物の靴がある。まだいるんだな。良かった。
一宮は家の中に入ると、真っ先に手を洗いに洗面所に向かった。俺は手を洗う前に、先にリビングに入ってキッチンの方を見ると、お互いに向き合って椅子に座っている二人が見える。母さんの向かいに座ってるのが一宮のお袋さんか。一宮に良く似た綺麗な人だ。ただ、やっぱり大人って感じがする。
こうして見ると、やっぱり俺の母さんのロリ具合は少し異質だな。そういえばだけど、一宮も初めて母さんを見た時は凄いびっくりしてたな。「え? お母……さん? え?」って隣で小さく呟いてたのはまだ覚えている。
「ただいま」
「あら千秋、おかえりなさい。ちょうど良かった。こちらが香月ちゃんのお母さんの美月さんよ」
「はじめまして。千秋です」
「はい、はじめまして。呼び方は千秋君……でいいわよね? ウチの娘の事を助けてくれたみたいでほんとにありがとうございます」
「いえ、そんなことは」
「ほら千秋、とりあえず手洗って着替えてきなさい」
「分かった。あ、途中で娘さんと偶然会ったので一緒に帰ってきました。先に手を洗いに行ったのですぐ来ると思います」
「偶然? 香月は最初から千秋君の事迎えに行く! って言って出ていったわよ? ……ってあっ! これ内緒だったわね……」
美月さんがそんなことを言う。なんか話が噛み合わないな。内緒にする理由が無いと思うけど……。
まぁ考えてもしょうがないか。とりあえず俺は着替える為に二階に行こうとしてリビングを出た。
すると、廊下に出てすぐの所に顔を赤くした一宮が立っている。
「何してんだ? 入らないのか?」
「うぅ……。内緒にしてって言ったのに……ママのバカぁ……」
「まぁ、親ってそんなもんだろ。とりあえず俺は着替えてくるから」
そして俺はそのまま二階へと上がって行った。
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