第9話 勘違いされたいお年頃
結局、この満員の状態が解消されることが無いままで、俺と沢渡は密着したまま学校の近くの駅に着いた。
ドアのすぐ近くにいたおかけですぐに出れたのは助かったけど、ぼーっとしたままで動かない沢渡の腕を掴んで降りるようにうながし、そのまま近くのベンチに座らせる。まだ、時間に余裕はあるしな。
未だにポケ〜っとしている姿を見ながら俺は首をさする。さっきみたいな間違いがないように顔を背けていたから少し首がいたい。
あれからも何回か危ない場面があったからなぁ……。
落ち着いたかな? って思った瞬間、いきなりこっち向いたり頭を変に動かしてくるから大変だった……。うっかりため息をついた時に「んんっ……また耳に息がぁ……」と言って大人しくなってくれたのは助かったけど。くすぐったがりなんだな。気をつけないと。
ってホームが混んできたな。そろそろ行かないと。
「沢渡、大丈夫か? そろそろ行こう」
「……へ? あ、うん。ごめんね。行こっか」
その時、ベンチから立ち上がった沢渡が少しよろけたのを支える。
「あ、ごめんね」
「いや、大丈夫」
「「…………」」
何故か俺の腕に捕まったまま離れない。
「さ、沢渡? このままだと全然歩けないんだけど? それになんか周りから視線感じる。勘違いされるぞ?」
「私は別に勘違いされても……ん~ん。ごめんね。いきなり立ったからふらついちゃって。じゃあ行こっか?」
そう言いながら離れると、いつも通りに戻って歩き出した。
……勘違いされてもってなんだ?
俺達の学校は駅を出て少し歩いた所にある。
歩いて十分ってとこかな。
俺達は二人は、今日の授業の話とかそんな他愛のない話をしながら学校へと歩いて行った。
俺と沢渡、それに九重と五條も同じクラスの為、下駄箱も同じ。一緒に靴を履き替えて教室に入る。
「おう、八代。おはようさん」
「おはよう。七海もおはよ」
「あぁ、おはよ」
「冬子ちゃぁぁぁん! ちょっと来てえぇぇぇっ!」
真っ先に五條と九重が挨拶してきてくれる。五條は少し長い茶髪をカチューシャみたいなもので上に上げていて、片手は何故か不自然に机の下に伸びている。九重は相変わらずのポニーテールに鋭い目だ。そしてその九重も片手が机の下に伸びている。あ、こいつら下で手握ってやがる。くそっ! この野郎……瞬間接着剤でくっ付けてやろうか!
俺はそんな二人に返事を返すと、沢渡はそんな九重の腕を掴んで五條から引き離すと、ベランダに出ていってしまった。
「おい、お前の彼女が攫われて行ったぞ。ざまぁ」
「やっかましい? 何か報告する様な事でもあったんじゃねぇの?」
「ふ~ん」
「俺もお前から聞きたい事あるけどな」
「なんだよ?」
「ま、それは昼にでも聞くわ」
「なんだそりゃ」
それから沢渡と九重がベランダから出てきたのは予鈴が鳴り、本鈴がなる直前の事だった。
おい九重。なんでそんなニヤニヤして俺を見る? お前がそんな顔してると悪巧みしてる女幹部みたいで怖いんだけど。
そして沢渡はまた顔が真っ赤じゃん。大丈夫か………ってまさかっ! 朝の電車での事言ったのか!? 言って無いよな? そんなん広まったらクラス中から軽蔑の目を受ける事必死なんだけどっ!
そんな不安を抱えながら昼休み。どうやら朝の事件は広まって無いみたいで助かった。
そして四人で飯を食べるためにいつもの中庭にあるテーブルに集まった訳だが……。
「で、八代よ。昨日冬子から聞いたけど、お前んちに女が居候してるんだって?」
「ん? あぁ、先週末からな」
「なんでまた」
九重に作って貰った弁当の蓋を開けながら五條がそんな事を聞いてくる。くそう。羨ましい。
さて、この質問にはどう答えたもんか……。流石に全部を話す訳にもいかないしな……。
「母さんの知りあいの子だよ。親元離れてこっちでやりたい事があって、けど住む場所がないから俺ん家で預かるんだと。それでその娘だけ先に来て、こないだ沢渡と九重に会った日は、そいつの日用品の買い出しに付き合ってたってわけ」
「ほーん。で、可愛いのか? スタイルは?」
ガタッ
なんの音だ? あれ? 沢渡そんな近くにいたっけ? まいっか。
「俺は結構可愛い顔だと思ったけどな。スタイルは……胸がデカい。それもかなり」
「んあっ!?」
なぜか沢渡がびっくりしたような顔をしている。
「誠に千秋、胸の話はやめなさい。七海が凹むでしょう?」
「と、冬子ちゃん!?」
「確かに七海は小さいけど、それでも大きくなるように色々頑張ってるだから!」
「も、もうやめてぇぇ……」
あ、沢渡の目が死んだ。九重、お前のフォローになってないフォローがトドメ刺したんだからな? 俺達のせいじゃない。
「あ~えっと……。そうだ! なんでお前が一緒に買い物に? 女ならお袋さんの方が良かったんじゃないのか?」
「俺もそう思ったんだけどな。なんかいつの間にか俺が世話係みたいになってんだよ。勘弁してくれって感じだ。その買い物に行った時も、服買うのに付き合わされるし、危なく下着買うのにも連れて行かれる所だったしな。家でもユルい服とか着てるから目のやり場に困るし。俺の隣の部屋に入る事になったから掃除も大変だったし……」
俺はそう言いながら弁当の蓋を開ける。
「「「…………」」」
ん? なんだ? 視線が冷たい。
「なぁ、ホントにただの居候なのか?」
「当たり前だろ?」
「その弁当は?」
「ん?」
言われて視線を落とすと、白米の上に海苔でハートがたくさん置かれていた。……すげぇな。
これ全部ハサミで切ったのか? 一宮のやつ、手先が器用なんだな。
「これすげぇだろ? なんか、お世話になるからって言って弁当作ってくれたんだぜ? 生まれて初めての女子からの手作り弁当! まぁ、これが彼女とかだったらもっと感動したんだろうけど、あくまで家族みたいな奴からだからなぁ」
いつかは俺の前にも、俺の為だけに弁当を作ってくれる子が現れるのだろうかねぇ……。
「お前マジか……。まぁいいや。とりあえず預かってる子なら絶対に手を出すなよ? 絶対に」
なんだ? そんな当たり前の事をなんでそんな強調するんだ? 沢渡も九重もすげぇ頷いてるし。
「出さねぇよ。そもそも相手にされないだろうしな。あ、そういえば今思い出したけど、今日向こうの親が挨拶にくるとか言ってたな……」
「あ、挨拶っ!?」
さ、沢渡さん? なんでそんな反応してんの?
「あぁ、なんかこれからよろしくお願いします的な?」
「これから!? よろしく!? そ、それって……まるで結婚する時みたいな……」
いや、俺の話聞いてた?
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