第23話
(23)
あの日の事をあらかた思い出すと、蓮池法主は便箋を広げた。それに目を通してゆく。
それは肉筆で書かれたものではなく、パソコンで書かれていた。だから感情の起伏などを読み取ることは出来ないが、その代わり事件の報告を冷静に伝えるのには非常に適していた。
法主は数枚の便箋を広げると古びたノートを便箋と並べるように置いた。
そのノートを開く。
それは誰かが書いた日記だった。
日記の端が少し焦げて焼けているが、法主はそれを丁寧に一枚一枚捲って行くとやがてある日付の所で手を止めた。
そこで息を小さく吐くと、日記に書かれた文字にそうように指をそっと置いた。
それを目で追うようにゆっくりと心の中で読んだ。
――一月二日(月)
本日、息子郷里より来る。久々に親子三人で水入らずの食事を道頓堀のかに道楽でした。久々に会った息子は母に似て、涼やかな眼差しをしていた。
ちなみに妻も日ごろは財布の紐が固いのだが、この日ばかりは奮発したようである。
食事をしながら漱石の『三四郎』を持って自分達に講釈を垂れる、また持参した野球のバットなどを見せて贔屓球団の選手の話などするところを見れば、少し大人になったようである。
息子は妻の所で眠っている。
いつか、三人で暮らしたいものである。
蓮池法主はそこまで読み上げると次に便箋を手に取った。
蓮池法主様
この事件についての背景は五月のあの夜に既にお話しした通りです。
あの日、田名さんは疲労困憊ならぬ心労困憊であったので、後日、僕が田中さんよりお聞きした殺人事件のことをまとめたものを送ります。
彼が犯した犯罪は三つです。
・一つは父親(いや養父と言うべきでしょうか)の佐伯一郎殺し
・二つ目は実父の白井邦夫殺し
・三つ目は母親の佐伯百合殺し
彼はこれらをあの少年の頃に犯していたのです。
それでは順にお話します。
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