第9話
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その日、僕達は酒屋を後にしてそれぞれの邸宅に戻った。
しかし、戻ったとはいえ、僕達は互いに軒を並べる隣同士である。
互いの玄関を潜る時、彼は僕に言った。
「田中さん、こいつ『三四郎』預からせてもらいますね」
勿論、それが元々彼のものであると言ってる以上、僕としては何も言いようが無いわけで、軽く頷いた。
ただ、
「ロダン君…ねぇ、もしだね。週末までに君が何かわかったことがあったら教えてくれよ。明日は月曜だし、僕は週末まで仕事だからさ。君とは会えないけれどさ」
それに頷いて、玄関から彼の声が聞こえた。
「分かりました。じゃぁ、田中さん。もし何か分かれば週末にでも」
彼の返事に僕は言葉を返す間もなく、玄関の流し戸が閉まる音がする。
僕は彼が残した静まり返る答えなき沈黙の中に、何故か大きな期待をした。
それは何かというと、そう…彼が次の週末までにこの僕の胸につかえたしこりというか、喉に詰まった魚の骨というか、この魔訶不思議な重しを取り覗いてくれて、朗々と気分爽快にさせてくれそうな、そんな期待だった。
そして驚くことに実に彼はそれをやってのけてくれたのである。
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