第15話
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噛み切られたイカのあたりめ。
それはまるでちぎられた過去のように見える。
ロダンはそれをぽいと口の中に含むと、苦みのある表情をしながら、愛おしそうにその紙に書かれている数字を見つめる。
まるで長年愛してやまない愛しい人を手に入れた恋人のように。
「…『461』『920』…、この数字と考え方のロジックさえわかれば、これで人物の名前を考えることができます」
言ってから紙を放り投げる。それはひらひらと木の葉のように弧を描きながら、音も立てず畳の上に落ちた。
「最初の『461』…、これから類推する苗字…田中さん、如何考えますか?」
「君は勿論正しい答えを知ってるわけだね?」
彼は首を縦に振った。
僕は思いつくことを述べた。
「…そうだね、例えば少し難しく、『
彼が首を振る。
どうやら違うようだ。
「じゃぁ…『
彼が笑う。
「捻りすぎ?」
彼が頷く。
「じゃぁ、シンプルに『
「ピンポーン!ご名答。では下の名は?」
ははと僕は笑い、それもシンプルに思いつくまま答える。
「おそらく…『
彼は眼を細めて笑う。
「正解です」
言いながら彼は手にスマホを取ると何か文字を打ち込んだ。
「田中さん、そうです。この数字が示す人物の名は『
うん、と僕は頷く。
「それでここからスマホの検索エンジンの登場です。水曜日の夜にそこまで推量できた僕は、その人物の名前を検索エンジンで調べてみることにしたんです」
「どういう、キーワードで?」
僕の問いかけに彼が答える。
「えっとですね。実はこの銀行カード。昭和63年から使用されているんです。ですので「昭和」「しろいくにお」「事件」と検索しました。すると…」
「すると?」
彼の言葉に同音して呟く。
「出て来たんです」
「何が?」
ロダンは手にしたスマホを僕に見せる。
「見てください」
僕は外面を覗き込む。
そこにはN新聞社の記事が出て来た。それを僕は彼のスマホを手に取って読む。読みながら僕は目を見開いた。
そう、それは彼とここで飲み始めた時に彼が呟いた言葉の通りだったからである。
そう、彼は言ったのだ。
――「いやねぇ…、だって一番大事なところなんですよ。あの『三四郎』の謎の一番の肝だったんですから…」
――「田中さん、あるってもんじゃないですよ…。ありありも有りすぎる。ここがまさかのあれに書かれていた渦中の場所だったんですよ!!」
「渦中の場所…」
僕は彼を見る。
「そうなんです。僕も驚きました。この長屋のあの大火災。それで亡くなった人物がいたんですよ。それがそこに書かれている『
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