マルタ作戦2
「な……なんなんだ! 今の爆発は!?」
突如として放たれた巨大な丸太。それはまるで新幹線をも凌駕する速度でこちらに接近すると大規模な爆発を起こした。
それは今までに受けた攻撃とは比べ物にならない程の衝撃。現実世界にいた頃にクラスメイト数人から全速力でタックルを食らったことを思い出す。
今回の爆発はそれよりも遥かに上だがエルピスのおかげで何とか怪我は負わなくて済んだらしい。
もっともそれでも激しい爆発を受けた衝撃は残っていて全身に痺れるような痛みが走る。
でも今気にするべきは無事だった自分のことではなく無防備な状態で爆発を受けたベルのほう。
彼女が無事なのかどうか慌てて周囲を確認するとそこには尻餅を付きながら痛そうな表情を浮かべるベルの姿が。
「大丈夫か!?」
「悪運が強かったってことなのかねぇ……こっちは大丈夫だよー」
ひらひらと手を振って合図を送るベル。そんな彼女の姿を見てとりあえずは胸を撫で下ろすがいつまでも安心している時間はない。
俺はすぐにノーマルフォルムからスピードフォルムへと変形をする。
スピードフォルムの速度で一気に遠距離から狙う相手を仕留める。それこそが今回考えた作戦だった。
俺は鎧に青い輝きを宿すと音速すらも凌駕する速度で一気に相手に駆け抜けようとする。
だがそんな俺の動きを見透かしたかのように移動した先に丸太が急接近し再び吹き飛ばされる。
それはまるで黒髪の少女ーー椿と戦った時のよう。あの時もこちらは高速で動いていたのに全ての攻撃を読まれ直撃を食らってしまった。
だとすれば今回も彼女が関与していることは間違いない。
確か如月の情報によると椿のスキルは神眼。神眼とは目に関するスキルでスコープなどを使わず視覚の拡大縮小が行える。
また透視や未来視なども可能であり、透視を使って隠れているスナイパーを狙ったり未来視で先ほどのように俺の行動を先読みすることも可能だ。
これではスピードフォルムになったとしても接近する前に丸太に激突し吹き飛ばされるだけ。
今度はバリアフォルムに変形してあの時の戦いと同じように攻撃を防ぎながら接近しようとするが。
向こうは丸太に爆発物を無数に仕掛けているのだろう。丸太が激突する衝撃が無数の爆弾が爆発するその威力がバリアを持ってしても防ぐのがやっとで近づくことは出来ない。
その間にも丸太は次々とこちらに発射される。その中には俺にではなくベル目掛けて放たれたものもあった。
「ベル……危ない!」
「だ、大丈夫ー。私がなんとかするからー」
ベルはそういうと手を接近する丸太へと向ける。すると丸太はまるで力を失ったかのように動きを静止させてその場にころんと落ちる。
落ちた衝撃で丸太は爆発するがそれは今まで俺が食らったものと同じとは思えないほどに貧弱でその衝撃も爆弾というよりは爆竹といった方が正しい。
「私のスキルは怠惰だからねぇ。半径十数メートル圏内なら強制的にデバフを掛けられるんだぁ~スゴいでしょ?」
「デバフか……それなら!」
俺は彼女を抱き抱える。普通の女性ならいきなりそんなことをされると驚くものだが良い意味で神経が図太いのか驚いた様子はない。
いやもしかしたら彼女は自分の作戦に気づいているのかも知れない。
何にしてもこの状況を打開するには彼女のスキルが不可欠。俺は彼女を抱えたまま発射された丸太へと接近する。
台風をも上回るような突風によって時速数百キロの速度で接近する丸太たち。
さらにそこに神眼のスキルが加わりこの丸太爆弾は避けることが絶対的に不可能となっている。
これらの丸太を避けることは高速道路のど中でこちらに向かってくる無数の車を避けることと同じ。
でももしその車たちの速度が徐行状態だったならば? もし高速道路を走っているのが車ではなく無人のベビーカーだったならば?
それらを避けることは対して難しくはないし仮に当たったとしても致命的なダメージにはならない。
要するに今こちらがやろうとしているのはそれと同じことだ。高速で近づいてくる丸太の速度を減速し巨大な威力のある爆弾を只の爆竹に変える。
「スキルを頼む!」
「りょーかい!」
ベルは俺の指示を的確に理解すると自身のスキルを発動させる。
するとどうだろうか。あれほどまでに超高速で接近していた無数の丸太たちはまるでカタツムリのように動きを静止させて地面へと転がり小さな爆発を起こす。
それでも諦めずと次々に丸太を放出するがその丸太たちは怠惰。故にみんなサボってしまって地面へと堕落だらくし墜落ついらくした。
「そうそう……みんな頑張らなくて良いんだよ。ゆっくりサボっちゃお~」
彼女の言葉にスキルに当てられて目の前に接近していた無数の丸太は只の木偶の坊へと変化する。
後はあの神眼と丸太を発射する風使いを倒すだけ。俺は丸太の発車された方向へと駆け足で進むとそんな俺たちを邪魔するかのように無数の冒険者が姿を現しマスケット銃から銃弾を発砲する。
だがそれらは全て無駄なこと。仮に銃弾が当たったところでバリアは破られないし彼女のスキル怠惰があれば銃弾はもはや銃弾としての役割を果たすことが出来ない。
無数に放たれた銃弾たちはまるで節分の豆まきのように勢いを無くすと地面へと勝手にポロポロと落ちていった。
気がつけば冒険者の妨害も全て退けているのは二人の転移者ーー椿と風鈴だけだ。
スナイパーは接近されれば終わり。さすがの二人もここまで接近されるとは思わなかったのか忌々しげな表情でこちらを睨む。
「チッ……ここは撤退よ。風のスキルで速度を上げなさい」
「うん! 任せて!」
この状況を勝ち目無しと判断したのか風鈴が風のスキルを使って撤退を試みる。
だが風鈴のスキルはどういうわけか椿の速度を上げることが出来ず彼女の周りにはそよ風だけが吹き抜ける。
「ど……どういうこと…………な、なんで……なんで風が出ないの!?」
「風鈴……! そうか……この女のスキルで……!」
「大正解~! 逃げるのも面倒だし諦めようよ~」
ベルのスキルは怠惰。その怠惰の能力を使うにはある程度の距離制限は掛かるがその距離に今椿は引っ掛かっている。
故に離れていた風鈴は風を纏って移動することが出来るが椿に至ってはいくらスキルを使おうともそよ風しか吹くことは許されない。
「椿ちゃん……! 嫌だ! 椿ちゃんを死なせたくない! こうなったら私が接近して!」
「バカな真似はよしなさい! ここで接近したら貴方にまで……私にだってこの神眼がある!」
俺は片手にある大盾で彼女の腹部を殴り飛ばす。本来ならばこの攻撃は彼女の神眼があれば対処すること可能だったかもしれない。
だがベルのスキルは当然風鈴だけではなく椿のスキルまでも怠惰にさせる。
故に彼女の神眼による未来予知は……遅れた。遅れた未来予知はもはや予知ではない。
「ふう…………り…………ぁ……ぅ」
「自分のスキルを過信しすぎるから!」
俺は虫の息である椿に再び盾をぶつける。彼女の鎧は盾の攻撃で圧迫されたのか潰れており口からは赤い液体をトロトロと溢しながら息絶えているのだった。
異世界ギルド革命~無能力のいじめられっ子はチートスキル持ちクラスメイト相手に女神から貰った《特化型チート装備》で無双し最強ギルドを設立、その後異世界にて革命を起こす~ 老紳士 @Sister140
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