女神ヘカテイアという人物
「凄い部屋。よくこんな宿にチェックイン出来たな」
目の前に広がるのは綺麗な部屋。大きなベッドは二つに床には絨毯だって敷かれている。
今までは一番安いボロボロの木製部屋で過ごしていた分この衝撃は大きかった。
「ふふん。どうですかー! 結構持ち前はあるんですよー。やっぱり可愛い女神だとお金も自然と寄ってきちゃうんですかねぇ」
「こんなにふかふかなベッドも初めてだ」
「あのー話聞いてます? というか可愛い女の子よりもベッドの方に興味がいくって」
家でも録な寝床なんてなかったし宿だって毛布一枚渡されるだけだった。
だからついつい目の前のベッドではしゃいでしまう。とはいえさすがにこのままヘカテイアを放置してベッドでじゃれついては申し訳ないのでヘカテイアに向き直った。
「ところで気になっていたんだが女神ってのはどういう意味なんだ? あの連中も同じようなこと言っていたようだが」
「聞いた通りです。今目の前にいる超絶美少女はなんと! 女神だったのです!」
えへんと誇らしそうに胸を叩くヘカテイア。確かに異世界では魔物だっているし女神がいてもおかしくないのは分かるんだけど。
不思議と彼女からは女神らしい雰囲気を感じられない。なんというか確かに可愛いのだが可愛いだけというか女神の凄みっていうのが無いというか。
「そりゃ凄い、女神ってことは何か凄いこととか出来るのか? 超能力とか魔法みたいなものとかさ」
「ま、まあ女神ですし当たり前ですよ?」
そう答えるものの何だかその声に覇気がない。何となく気になったのでその話を深く聞いてみることにする。
もし女神に超能力があるのならば冒険者のスキルに対抗する手段が出来るかもしれないし。
「じゃあ見てみたいなぁ。ヘカテイアの超能力」
「わ、分かりましたよ。それじゃ少しだけ」
そういってヘカテイアは懐からトランプを取り出す。それを手でシャッフルするとこちらに差し出した。
一枚引けということなのだろう。彼女の指示通りトランプの中から一枚を選ぶ、カードにはスペードの6が刻まれていた。
「それじゃ女神の力を使って引き当てますね。貴方が持っているカードはスペードの6……違いますか?」
「…………」
「え? なんですかその反応」
「ちょっとトランプ見せて貰おうかな」
「わ、わわっ! ダメですよー! トランプに触ったら」
「やっぱり全部スペードの6」
シャッフルしてる時に同じ絵柄ばっかりだったのでまさかと思ったがやっぱりそうらしい。
女神ヘカテイアもまさかトランプを取られるとは思わなかったのか苦笑いをして誤魔化すだけだ。
「というか女神の力なのにトランプ持ち出す時点でちょっとショボイよな」
「ショボイとか言わないでくださーい! 私だって本当は津波で世界を壊したり月を落としたりとかしたいんですよ! そんな力無いですけど!」
「もしかして……女神なのに力とかはないのか?」
「えへへ。強いて言うならこの可愛さですかねぇ~」
可愛らしい仕草で誤魔化そうとするヘカテイア。結局可愛いだけで俺が期待するような能力は特にないらしい。
もっともだからといって女神ではないとまでは断言しない。実際エルピスは異世界の技術を超越した装備だし敵だって彼女を女神と認識している。
女神としての威厳も能力もないが彼女が人ならざる何かを持っていることは事実だった。
「い、一応言っておきますけど昔は女神としてそれなりに活躍してたんですよ。私を信仰するギルドだってありましたし」
「……全部過去形?」
「もう潰れましたからねー。一応天使の翼ってギルド名だったんですけど知ってます?」
天使の翼というギルド名なら聞いたことがある。確か悪徳な商法をして潰れたとか。
とにかくあまり良いギルドではなかった記憶。そんなギルドの長といて大丈夫なのだろうか。
ちょっと前までの希望に満ちていた状況から一気に不安になってくる。
「あーその表情! 絶対知ってるって顔じゃないですかー!」
「そりゃ知ってるさ! というか余り人と関わり無い俺ですら知ってるってどんだけ悪徳なギルドだったんだ!?」
「ち、違うんですよ。私はちょーと製品を高く売っただけなんです」
「あんまり聞きたくはないが……どんな物を売ろうとしてたんだ?」
「空気……」
「…………は?」
ヘカテイアの言葉に頭が真っ白になる。いや待て……この人なんて言った?
空気? 空気って俺たちが呼吸している空気のことだよね!?
「ギルドの神聖な空気! これを吸えば貴方も浄化される! お手軽浄化セット! みたいな感じで瓶に入れて売り付けたんですけどこれが不味かったんですよねー」
「要するに観光地の空気を入れて観光地気分を味わうみたいな?」
「それそれ! そんな感じでお手軽浄化路線でいこうと思ったんですけど罵詈雑言の嵐で、さすがに空気を金貨一枚は高すぎるって欲に目が眩んだ結果ですね
確かに空気を売る商売は実際に存在しているし彼女の考え方そのものは悪くはないのかもしれない。
それこそ上手くやれば買う人もいただろうにその金額が不味かった。
いくら目先の金に目が眩んでも金貨一枚は人を舐めている。それに神の浄化がそんな空気瓶だかに入っているもので良いものなのか。
「でも仕方なかったんですよ。エルピスを作るためには膨大な資金が必要でしたから」
「……エルピスか…………君はこれを使って幸せな世界を作ろうとしていたのか」
「そうです。現在クエストはギルドの連中によって取り占めが行われていて冒険者はどこかのギルドに入らなければならない状況です」
それはここ数ヶ月、異世界にいて嫌なほど経験したことでもある。
クエストはギルドの連中が回収しておりソロで向かった日にはまともなクエストは存在せず労力のわりに報酬が見合わない外れクエストばかりが残されていた。
必然としてソロや二人から三人といったパーティーではクエストが取れず結果、他の冒険者たちもギルドに所属せざるを得なくなっているのがこの異世界の現状だった。
「俺みたいに人付き合いが苦手な人は厳しい世の中ってわけだ」
「弱者にとっても厳しいです。ギルドに所属できる人はいいですが能力が足りず所属できない人だっています。そういった人たちはどうなります?」
「……余ったハズレクエストをやらざるを得ない」
「そういうことです。現在は強者至上主義もとい転移者至上主義ですからねー。弱者は死のうと行方不明になろうとどうだっていいんですよ」
それがこの異世界の現状。レイシムやスピナの二人もきっとそういったギルドに選ばれなかった人たちなのだろう。
だからギルドに所属出来ず危険で報酬の少ないクエストをやる他に無かったのだ。
もっとこの異世界が弱者に優しい世界ならあの二人が死ぬことだって……。
「だからこのエルピスを使って世界を変えようってわけか。それは分かった……だが具体的な方法が分からない」
「勿論考えてますよ。その為にもまずは……ギルド作っちゃいましょうか?」
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