新装備の性能
「ナギトだっけか…………新しい装備品の調子どうだ?」
町から数時間程の距離にある森。そこで俺は木を斬り倒したり動いたりしながらレイシムから貰った新しい装備品を試す。
それは初期装備の軽装とは異なり頭から足まで全てを覆う重厚的な鎧になっている。
本来ならばこれだけの鎧に包まれればその重量によって動けないのではと懸念したが、これが転移者特有の拡張力というものなのかまるで初めから身体の一部であったかのように重さを感じなかった。
拡張力はその力が高ければ高いほどその者の所有している装備品の性能も上がる。
性能というのは本当にあらゆる性能が上がるのだ。鎧はより固くなるし武器の切れ味やその機動性だって段違いになるのだ。
「……悪くない。というより全然動きやすい」
赤色に塗料された鎧を身に纏いながらレイシムに返答する。それを聞いて彼はどこか安心したような表情を浮かべた。
「それなら良かった。すまないな……これは俺のお古だからランクはそんなに高くない。精々Dランクってところだ……不満はないかって心配してたんだ」
装備にはそれぞれランクが存在しそのランクによって性能が上がる。
ランクはFからSまであってこの装備がDランクならお世辞でも良い装備とはいえない。
それでも動きにくく攻撃の通らなかった初期装備と比べ鎧の動きやすさ、武器の切れ味も上がっている。
またランクがC以上になると特殊武器があったりもするのだが今の俺には関係のないことだ。
「……少し魔物を倒してみても良いか?」
「おーいいね! それならさあのイノモスなんてどう? あれならお肉にだってなるよ!」
そういって赤毛の少女スピナが指差したのはまさにその名の通りイノシシとマンモスが混ざったような姿をした巨大な魔物。
身体の周囲は硬い毛に覆われており口付近にある二本の巨大な牙はまるでランスの先端のように尖っておりその牙で貫かれたら只では済まないだろう。
「あ、あのー…………もっと弱いのにしないか。これじゃ勝てるかなんて」
「大丈夫だって! 転移者なら何とかなる! 多分だけどね!」
「多分って……」
スピナの根拠のない言葉に困惑する。とはいえ確かに新しい装備を付けたというのに普段から倒しているゴブリンやスライムと戦うのでは意味はない。
それにスピナはともかく落ち着いた様子のレイシムでさえ特に注意をする様子はない。
ということは二人ともこの装備ならイノモスに勝てると確信しているのだ。
ならば自分も二人を信じて戦うとしよう。俺はこの装備に付いてあった大剣を手に取るとこっそりと森を歩いているイノモスに近づく。
大剣は重量があるため動きこそ一般武器に比べて落ちるがその威力はかなり大きい。
だからこそ大剣を持った時の戦術は相手の隙をついての一撃必殺。
よく大剣は正面から力押しで敵を圧倒する印象があるが大剣だからこそ奇襲の方がより効率的に巨大な一撃を加えることができる。
俺は木の裏からイノモスの様子を伺う。向こうはこちらの存在にまったく気づいてないのか呑気に生い茂っている草をむしゃむしゃと食べていた。
そんなイノモスの背後に対して地面を蹴り一気に駆け出す。魔物との距離は数メートル。
大丈夫……落ち着いてやれば倒せる。相手に反撃を与えず一撃で仕留められるはず。
「俺だって……やってみせる!」
それは自分が思っている以上にスムーズに事が進んだ。数秒は掛かると思っていたイノモスとの距離を一瞬で詰めて次の瞬間にはその魔物に対して刃を下ろしていた。
「グオォォオォオォオッ!!」
魔物は何がなんだか分からないと言った様子で叫び声を一つだけあげると力尽きたのかそのまま動かなくなった。
信じられない。装備品のランクを少し変えただけでここまで実力が変わるものなのか。
今まではゴブリン一体に刃を何度か当てなければならなかったのに大剣とはいえゴブリンより強い魔物を一撃で倒してしまった。
その事実に驚いていると後ろの方からパタパタと駆け寄ってくる音が聞こえる。
振り返って見ると赤毛の少女スピナがこちらに向かって走ってくる足音だった。
「一撃で倒しちゃったなんて凄いね! これが転移者って奴なのかな」
「装備品が良かったんだ。でも勝てて嬉しいよ…」
元々の装備品の性能が自身の拡張力によって上がり魔物を倒せる一撃を与えることが出来たのだ。
イノモス自体は魔物としてそこまで強くはない。だがそれでもゴブリンよりは遥かに強くそれをあっという間に倒せたことに安堵する。
「魔物をアッサリ倒しちゃったもんね。嬉しいのは当然だよ」
「勿論それもあるが……これなら二人の役に立てそうだと思ってな」
もしこのまま役に立てなければ迷惑を掛けるんじゃないかって不安だった。
でもこの装備なら微弱ではあるけれど二人の力になれる。今まで役立たずと思われてきた俺にとってその事実自体がとても嬉しいのだ。
「ま、役に立つとか立たないとか難しく考えることはねぇ。今回の魔物はかなりの強敵だ。とにかく生きることだけを考えろ……もっとも霞の場合俺よりも装備品の扱いは上手いからその心配は無用かもしれないがな」
そんなことを言いながらイノモスの身体に刃を突き立てて中から丸い塊を取り出すレイシム。
これは魔力核と言われており、この核を持ち帰ることで魔物を倒した証拠となりクエストの達成や換金などで役立つことが出来る。
もっとも換金と言っても貰える金は少なくイノモスでもパンを買えるかどうか程度の金額にしかならないが。
だからこそクエストの手当て金が俺たちにとっては重要なのだ。
「そういえば……今回の討伐対象ってキメラって聞いたが。それはそんなに強いのか?」
「クエスト難易度はB。イノモスの数十倍は強いだろうな……危険なクエストに巻き込んでしまって悪いが……俺たちも金に困っててさ」
「そこはお互い様なんだな」
「そうだな。俺は妹ーースピナを守らなくちゃならない。その為にもでっかいクエストこなして金稼がないといけないんだ。それが危険なクエストでもな」
クエストは当然だが難易度が高いほどその報酬は大きくなる。二人がどの程度の実力かは分からないがキメラ退治は二人にとってかなり荷が重いクエストなのだろう。
でもそれでも彼らは命の危険に身を晒す必要があるのだろう。自分達の生活のためにも。
ならば俺に出来るのはきっと戦うことで彼らのクエストを安全にするために刃を振るうことだけだ。
「大丈夫。危険なんかじゃない」
「……え?」
「俺が……俺が二人を守る」
「俺だって勇者だぜ? 守られてるなんてしょうに合わねぇさ。だから一緒に倒してやろう! キメラっていう化け物を!」
まるで子供が悪戯を考えている時のようにニヤリと笑ってそう答える。
するとレイシムもニヤリと笑い返す。何となくこういう関係を仲間って言うのかも知れないと思った。
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