月下という組織の対策
「これで分け前の分配は終わったね」
クエストを終えた俺たちは近場の料理屋で分け前の分配を行った。
もっとも分配といってもこちらが貰うのは大勲章だけ。それ以外の報酬は全てソマリたちのギルドが受け取ることになる。
俺やヘカテイアとしては勲章を手に入れること自体が目的だったのでこの条件で満足している。
だがソマリはその事に引け目を感じているのかどこか申し訳なさそうな表情だ。
「もう何度も聞いちゃいるが……本当に全部貰っていいんだね?」
「こちらも何度でも言っているが構わないよ。この報酬でより多くの命を救えるならそれに越したことはないからな」
「私たちは人々を救うためのギルドですから……これもある意味ギルド活動の一環、勲章を貰えただけでも見返りとしては多すぎるほどです」
「ま、それならそれで良いんだけどさ。ありがたくこの報酬は獣人の為に使わせてもらうよ」
「ああ……そうしてやってくれ。……それとあの娘を……ミケを守れなくてすまない」
折角Sランクの魔物に勝ったのだ。本来ならばこの勝利気分に酔いしれるべきでこのような暗い話をするべきではないということは分かっている。
でもどうしても自分の不甲斐なさが悔しくて亡くなった彼女に申し訳なくてそれをつい口にしてしまう。
「あの時……俺が洞窟の外で待つようにって言わなければ……ミケが殺されることなんて無かったんだ。いやそれ以前にもっと俺が強ければ……あのバイオリン弾きをもっと速く倒して間に合ってたかもしれないのに!」
「ナギト……アンタは真面目すぎるんだよ」
「……真面目?」
「アンタたちの世界ではどうかは分からないけどさ。この異世界では死ぬことは日常茶飯事なんだ……命を背負いすぎると潰れちまうよ」
ソマリだって本当は辛いはずなのに落ち込んでいる俺を気にしてそう声を掛けてくれる。
確かにソマリは多くのクエストをこなしている分それなりに別れだって経験している。
でも別れが日常茶飯事であろうとその悲しみは変わらないはずなのだ。
「それでも俺は背負っていきたい。例え潰れたとしてもみんなの死を無駄にしたくはないからな」
「……ナギトさん」
「ヘカテイア……どうして人は奪い合ったり争ったりしてしまうんだろうな。俺は人殺しもしたくないっていうのにさ」
「力があるからだと思います。力があるからそれを誇示したり他人と競いあったりするのです」
それは鮫島も言っていたことだった。彼は確かにいじめをするような最低な奴だった人を平気で殺すような奴では無かったはず。
しかしこの異世界に来てスキルや拡張力なんて力を持ってしまったから殺人だって平気で行えるようになってしまった。
「ならばどうすれば良い。ヘカテイアには考えがあるんだろ?」
「だからこその私たちのギルドです。私たちのギルドが革命を起こせば世界だって変えられる。力を必要としない世界……誰も争わない世界を作る必要があるのです」
「そうだな。一緒にこの世界を変えよう……ソマリもその時は共に戦ってくれるとありがたいな」
「……アタシかい!? 正直……世界ってのはそう簡単に変えられるもんじゃないと思うんだが、でもそうだねアンタなら出来るのかも知れないねぇ」
それはまだまだ遠い道のり。今の俺たちはスタートラインから一歩を踏み出した段階にしか過ぎない。
だがそれでも俺たちは必ず目的を達成してみせる。死んでいった者たちの為にも苦しんでいる者たちの為にも。
「もっとも世界を変えるうんぬんの前に何とかしないといけない問題もありますけどねぇ」
「俺たちを襲っている謎の集団か……あいつらについて何か分かったのか」
「分かるも何もあんだけのSランク装備に転移者を投入できるなんて月下しかないね! どうやら目的はアタシたちでなくアンタらみたいだが」
月下という組織は聞き覚えがある。確かこの異世界の中では最大戦力を保有しているギルドだとか。
そう考えるとよく二回とも襲撃にあった中で助かったものだと思う。
「敵の狙いはこのエルピスでしょうね。月下は帝国とも仲が良いらしいので帝国の誰かが月下に依頼したと考えるべきです」
「あのお偉い帝国様がねぇ……帝国内でもそれなりに問題を抱えてるみたいだし、エルピスの力が欲しいってのは分かるけどね」
「そこまで……人を殺してまで強い力が欲しいなんて俺には理解できないよ」
「人はそんなに綺麗じゃないってことです。何にしてもこれからも月下や帝国は私たちを狙うでしょう……その時は」
「任せてくれ。俺がお前を守ってやるさ」
そうとも月下だろうと帝国だろうと関係ない。俺は弱者をみんなを守りたいだけなのだ。
俺は決意を新たに決める。この勲章はSランクの魔物を倒した証、だがそれ以外にも自分の覚悟の証でもあった。
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