神眼と鉄壁

 「な……何てこった……春川を……春川をやりやがった」


 「狼狽えるんじゃないぜ! 佐竹が倒された時点である程度の被害は覚悟してただろうが! それよりスキルだ! 仲間を殺されたんだ! それなりの代償は払ってもらうぜ」


 目の前で仲間を殺されたことで動揺するクラスメイトたち。だが、そんな中で茶色の騎士ーー鮫島だけは冷静に対処していた。


 彼がこの部隊を指揮しているのかどうかは分からない。だがこうして落ち着いている人間が厄介であるのは確かだ。


 俺は真っ先に鮫島を倒そうと彼に接近して刃を振るう。真っ先に振られた斬撃に対して彼は反応して盾で防ごうとするもその盾は一瞬で真っ二つになってしまう。


 「う、嘘だろ……盾を一瞬で……!」


 「どうしてお前たちは楽しそうに人を殺せる!」


 「へへっ! 別に人殺しが楽しいんじゃないぜ? 力を示すのが楽しいのさ! 折角のスキルなんだ……それで遊ぶのは当然だろ?」


 人は力を手にいれるとそれを他者に示したくなるもの。彼らはそういった力を示したいが為に命を冒涜しているのだ。


 そんな身勝手な理由で人を殺せるということに俺は驚きを隠せなかった。


 「お前にとってそれはいじめの延長線なのか? いじめだって力を示したかったから!」


 「勘違いするなよ? 俺がお前をいじめていたのはお前が嫌いだったからさ。お前の汚れた血のせいで……俺は不幸になっている!」


 「な……何を!?」


 彼の発言に困惑したその瞬間。鮫島は俺に対して刃を勢い良く振るう。


 装甲が薄いスピードフォルム。だがその装甲であっても刃を通すことはなく逆に鮫島の剣が粉々に壊れてしまう。


 「ば、馬鹿な!? 攻撃してるのはこっちのはずだろ!?」


 「お前みたいな奴がいるから……みんなが不幸になるんだ」


 「不幸なのは弱いからだ! 弱いくせに幸せになろうなんて図々しいね」


 「弱者にだって幸せになる権利はあるんだ! なのに力でそれを奪うなんて!」


 俺は身体に光を纏って高速で移動するとそのスピードに乗って刃を何度も振るう。


 振るった刃の全ては鮫島にガキンガキンという金属音と共に全て直撃する。


 鮫島は血をポタポタ垂らしながら後方へと下がる。それに代わるようにして他の転移者たちがこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。


 「ぐっ…………ゲホッ…………なんつー攻撃力だよ。こっちは硬化スキルを使ってるってのによ」


 「さすがに数が多い……でも俺が……俺がみんなを守るんだ! 誰も傷付けさせるものか!」


 一旦戦域から離脱した鮫島を放置してヘカテイアたちを襲おうとする他の冒険者たちを倒すことにする。


 相手も今回は精鋭を集めているのだろうかそのほとんどがスキル所持者であり、動きも手慣れている。


 ヘカテイアやソマリもそれなりの力は持っているが転移者を相手にするのは厳しいだろう。


 実際ヘカテイアたちも冒険者と刃を交えているがあまり良好とはいえない。


 「転移者でもないのに随分とやるな! だがこっちにはスキルがある!」


 冒険者の一人が女神ヘカテイアに対してスキルを発動させる。彼のスキルはレーザー光線なのか手から巨大なビームが発射された。


 ヘカテイア何とかそれを避けるがレーザーは止まることを知らず彼女を追いかけるように放出し続ける。


 「ヘカテイア……俺が!」


 「だ、大丈夫です。ヘカテイアちゃんだって役に立てる女神だって証明してみせますから」


 ヘカテイアは転移者の周りを囲むようにしてビームを避ける。そんな彼女に対して転移者も身体の軸を回転させながら追いかけるが途中で彼の顔が青ざめた。


 転移者はヘカテイアを倒そうとするあまりに周りが見えていなかった。


 彼がビームを放出している先。そこには彼の仲間たちが……。


 「えっ……うわぁぁぁ!」 


 「馬鹿! なに仲間を殺してんだ! 今すぐビームを止めろ!」 


 「うっ……すまねぇ」


 ビームに飲み込まれて敵が五人ほど消滅される。そのことに慌てた転移者がビームを止めるがそれは同時に彼の利点を消すことに繋がる。


 ヘカテイアはその一瞬の隙を見逃さず槍を転移者の首に突き刺した。


 「がっ……あ…………」


 「どうですかぁーヘカテイアちゃんだってやる時はやれるんですよー」


 「さすがは俺のパートナーだ。だがあまり無茶はするなよ?」


 「それはこっちの台詞です。あまり無理をしないで下さい」


 「俺としてもそうしたいのは山々だが……それは難しそうだ」


 その発言と同時に俺は横へと高速で芋生する。すると先程まで俺のいた場所に無数のスキルが放たれていた。


 勿論エルピスの装甲は頑丈で通常の攻撃ならば傷一つ付くことはない。


 しかしだからといって攻撃を受けて大丈夫だという保証はない。特にスピードフォルムは他のフォルムに比べて装甲が薄いのだから用心に越したことはないだろう。


 俺は無数のスキルや銃弾を避けながら次々と冒険者たちを刃によって斬り伏せていった。


 「や、やめろ……う、うわぁぁぁ!?」


 「来るな……! こ、来ないで…………あッ……」 


 スピードフォルムの速度に圧倒されて逃げ惑う冒険者たち。だがもう彼らを許すことなど出来ない。


 攻撃を止めようと泣き叫ぼうと逃げ惑おうと関係なしに刃の餌食にする。


 気がつけば周りにあるのは冒険者たちの魂の脱け殻だけ。あれだけいた敵も数えるほどだ。


 「なんとか片付きそうですねー」


 ヘカテイアも冒険者の腹部に槍を突き刺しながら呟いた。もはやここからは掃討戦……敵の数を減らすだけの戦いだ。


 俺は残りの兵士も片付けようと刃を振るおうとするが、次の瞬間身体の四股に鋭い衝撃が走った。


 勿論鎧に傷は出来ていない。だが今までに感じたことのない威力の高さに驚く。


 「ぐっ……狙撃されたのか! しかしスピードフォルムの速度ならば」


 高速で動けば相手の狙撃にも対処できる。そう判断した俺は身体に光を纏い高速で動き回るがそれでも尚無数の銃弾が全て俺の四肢に直撃した。


 スピードフォルムの装甲でも何とか持ってはくれているがこれ以上の直撃は避けたかった。


 「鎧において最も装甲が薄い稼働部を狙ってきてますね。ナギトさんの戦いを見て頭部や胸といった装甲の厚い場所ではダメージが与えられないと判断したんでしょう」


 「……どうやって当てられる。この速度で当てられるとは思えない」


 「それが狙撃手のスキルということですかね。何にしても装甲の薄いスピードフォルムでは危険です一番安全なバリアフォルムを使ってください」


 「バリアフォルムということはこのシールドマークのボタンを押すんだな」


 ヘカテイアが頷くのを確認すると俺はバリアのマークのボタンを押す。


 すると他のフォルム同様鎧がパージされてガシャンという音と共に変形されるがその瞬間、こちらに向かって残った敵たちが一斉に銃弾を発砲した。


 しかし不思議なことにその銃弾はまるでバイオリン弾き攻撃を仕掛けた時と同じように見えない壁によって阻まれ防がれる。


 「変形中に攻撃されるなんて分かりやすい弱点残してると思ってるんですかぁー? そこら辺はしっかりヘカテイアちゃんが対策済みです!」


 それはあのバイオリン弾きに攻撃が効かなかったのと同じ原理なのか何にしろヘカテイアの対策のおかげで無事に銃弾を受けることなくフォルムチェンジを成功させる。


 バリアフォルムの色はノーマルフォルムと同じ白銀色。しかし装甲はノーマルフォルムの三倍ほどに分厚くなっており左右の手には大盾が装備されており他に戦闘用の武器はない。


 フォルムチェンジした俺に対して再び銃弾がどこからともなく発射される。


 それは俺の四肢を狙って発射されたがスピードフォルムと違ってその銃弾がこちらへと届くことはなかった。


 「これは……バリアか!? オートで発動するのか」


 どうやらこのバリアフォルムにはその名前通りバリアを展開出来るようで銃弾は全てバリアによって鎧にすら届くことは許されなかった。


 あらゆる武器が通用しない装甲にその装甲にすら攻撃を通さないようにするバリア。


 この二重の防御があればもはや狙撃など恐れる必要はない。俺はバリアを展開しながら無数の銃弾を防いでいった。


 「攻撃を防いだのはいいが問題は狙撃手がどこにいるかだな」


 「それならアタシに任せなよ。獣人の嗅覚を使えば火薬の匂いで辿り着けるさ」


 「分かった。だったら捕まれ……案内してもらおう」


 ソマリは頷くと俺の背中へと飛び乗る。背中からはずっしりとした感触が伝わる。


 彼女は小さい少女のような姿をしているから軽いと思っていたが胸なのか筋肉なのかそれなりに体重はあるらしい。


 「……重っ」


 「今何か言ったかい?」


 「羽根のように軽いと言ったのさ。全速力で掛けるしっかりと捕まってくれ」


 彼女を背負いながら銃弾をバリアで防いで案内を受ける。案内通りに進めば進むほどに距離が近づいて匂いが濃くなるのかより正確な位置を特定できるようになる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る