骸骨のバイオリン弾き
「ここです。この洞窟にみんなが……!」
ケモ耳少女の案内を受けて洞窟に辿り着いた。洞窟の中から聞こえるのは刃と刃のぶつかり合う音と不気味なバイオリンの音。
まだ金属音の方は分かる。恐らくはソマリたちが魔物と一戦を交えているということなのだろう。
だがこの音楽はどういうことなのだろう。まさか戦闘中に曲を演奏する者などいるとは思えないが。
「あ……あれは魔物が奏でて……」
「魔物が曲を……そんなことがあり得るのか」
「Sランクの魔物は知能に優れていまからねー。知能があるということはそういった趣向を楽しむこともあり得るということ……でも今回魔物が曲を流すのはそれが相手の能力に関連するということですか?」
ヘカテイアの言葉にソマリは怯えた表情で頷いた。魔物の中には特殊な能力を持つ者も存在する。
例えば今回倒したダイヤモンドゴーレムはその硬さはが能力だったしキメラで言えば二つの頭で役割を分担する力があった。
それと同じで今から戦う魔物もそういった能力が曲を奏でることで起こるらしい。
「魔物はどんな相手だったんだ?」
「奏者のような格好をした骸骨……アイツは演奏で手下を魔物を召喚することが出来るんです! その手下も強くてウチらの仲間もどんどんやられて……!」
「それだけ聞ければ十分だ。安心しろ……お前の姐さんも仲間も助けてやる。だからお前はここでお留守番だ」
正直なところ腹部を切られた状態でここまで案内させた時点でかなり無理をしている。
そんな状態で一緒に戦うのは不可能。今はこの入り口付近で休ませるべきだろう。
向こうも本当は一緒に戦いたかったのだろう。その言葉に悔しそうな表情を浮かべるが自分の状況を見てその悔しさを呑み込んで首を縦に振った。
「分かりました。私は……ここで見張りをしてます……。どうか姐さんを!」
俺は少女の言葉に頷くと洞窟の奥へと向かう。洞窟の中へと進んでいくにつれて刃の音とバイオリンの音楽がより強く聞こえるようになる。
やがて薄暗い通路から一気に広けた場所へと辿り着くと演奏者のような格好をした骸骨が一人バイオリンを奏でておりその曲はこの空間全体を満たしている。
そんな中で無数の骸骨たちはまるでその演奏に酔いしれるかのように華やかな動きで剣を振るい獣人たちに襲い掛かっていた。
「ちっ……こんな時に新しい冒険者かい!」
無数の骸骨を切り伏せながら言葉を放ったのは赤毛の猫耳少女ーーソマリだった。
どうやらソマリは俺たちのことを手柄を横取りしに来た冒険者と勘違いしているらしい。
「俺たちはお前のギルドの娘に呼ばれたんだよ」
俺はマシンガンを使って骸骨たちを一層する。だが手下の骸骨もそれなりの強さなのかマシンガン一発では死なず倒したうちの何体かはすぐに起き上がり再び剣を振るう。
またそうしている間にもバイオリン弾きは新たな骸骨を生み出しているのか敵の数は一向に減らなかった。
「アンタらの助けなんていらないよ! こんな骸骨……アタシ一人だって」
そういって骸骨に斬りかかるソマリ。だが骸骨の方が反応が早いのかその斬撃避けて背後へと回り込まれ逆に刃を振るわれる。
「ああっ……しまった!?」
俺はすぐにソマリと骸骨の間に入り込んで骸骨の攻撃を刃で弾いた。
だが骸骨の攻撃はこれで終わりじゃない。更に攻撃をしようと今度は素手でこちらに迫ってくるがそれよりも早く無数の軌跡が骸骨を粉々にする。
「別にアンタの助けが無くたって……」
「……いい加減にしろ! プライドで命を無駄にするな!」
「…………っ!?」
そこまで言われてソマリは黙り込む。視線は俺ではなく骸骨と戦っている仲間たちの方。
命を賭して戦っている獣人たちを見て覚悟を決めたのだろう。先程のような強張った声ではない落ち着いた声色で応える。
「頼む……アタシと一緒に戦っておくれ。あの娘たちを守りたいんだよ」
「ああ! 任せておけ!」
俺はマシンガンで敵を三体ほど素早く倒す。だがそれよりも速い速度で骸骨は出現し戦況が変わることはない。
いやそれどころか時間が経てば立つほど骸骨一体一体に光のオーラが現れより動きが鋭くなっている。
「これは……バフですね。この骸骨が曲を奏でることによって手下の身体能力に強化が入っているみたいです!」
骸骨を槍で貫きながらヘカテイアは助言する。骸骨一体の動きはそこまでだが数が多く時間と共に身体能力も向上する。
さすがはSランクといったところなのだろうか今までと比べてその厄介さが桁違いに上がっている。
「演奏で増えるというのならば……演奏者を倒せば良いだけのこと」
俺はマシンガンで指揮者をしている骸骨に向けて発砲する。バイオリン弾きに向けられた無数の銃弾はどういうわけか見えない壁によって弾かれてしまう。
今までどんなランクの鎧や盾、ダイヤモンドゴーレムの身体ですら容易く撃ち抜いた銃弾がこの骸骨には通じなかった。
「どうなっている……まるで見えない壁があるようだ」
「コイツは骸骨のバイオリン弾きって名前でね。コイツを倒すにはまず周りにいる骸骨どもを全滅させなきゃならないのさ」
「大体骸骨が生産されるのが一分前後ですから……いくら獣人さんが味方になっていても無理ゲーじゃないですかー!」
あの骸骨の軍団を見る限りどうやら骸骨の数がある一定数を下回ると一分以内に破壊された骸骨と同じ数だけ再生産を行うようになっているらしい。
しかも骸骨は動き方を見るにBランクの冒険者と同等の身体能力を持っているように見える。
そしてそれが時間と共にバフによって強化されるのだからいくら装備品が強くともソマリたちが苦戦するのは無理のないことだった。
「こうなれば殲滅力に優れたアーチャーフォルムで……」
「あ、タンマタンマ! アーチャーフォルムはダメです! ここは洞窟ですよ! ミサイルでドカーンなんてしたらここが崩れちゃいます」
「それもそうだな……ではどうする?」
「この状況ならスピードフォルムで行きましょう! 足のマークが刻まれたボタンを」
「足のマーク……これか!」
幾つもあるボタンからスピードフォルムのボタンを押す。すると装備がパージされてガシャンという音を立てながら再び自分の身体へと別の鎧として装備される。
色は銀色から青色に変わっており鎧の関節部分には金色の塗装がされていた。
また武装も全く違うものになっておりアーチャーフォルムではマシンガンやバズーカなどの重火器が用意されていたが今回は重火器どころか常備されていたマシンガンすら見当たらない。
あるのは二本の小太刀のみ。それに装甲も削られているのか前よりも鎧はシンプルになったように見える。
「こ、この装備……鎧が変化するのかい!?」
「それが俺の装備ーーエルピスの力だ」
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