マルタ作戦
「ふぃー……ようやく終わったよ~」
ベルの案内の元。設備の部品探しは順調に進んだ。当然市販で買えるやつは市販で買うようにしたがそれ以外は自分の力で採集しなければならない。
またその部品があるところもバラバラなので俺たちはかなりの距離を歩かされる羽目になった。
俺はまだ何とか帰るだけの体力は残っているがベルはもう限界のようだった。
「素材も集めたことだし少し休むか」
「じゃあお言葉に甘えてー」
ベルは俺の休憩の合図を聴くや否や地面の上にごろんと寝転がる。
現在俺たちがいるのは森の中。空からは木の葉がゆらゆらと風に導かれながらベルの体の上に舞い落ちる。
だがそんなこと気にした様子はないのか気持ち良さそうに目を閉じていた。
「ナギちゃんはゆっくりしないのー?」
「今は外だからな。いつ敵に襲われるか分からないだろ?」
「んー……それもそうなんだけどそうじゃなくて」
俺の返答に何かおかしなところでもあったのだろうか眠たそうな声で呻きながらどう話すべきか悩んでいるようだった。
風が素材集めで火照った身体に気持ちよく降り注いだ。土の香りに草木の柔らかな感触。
普通の人ならばなるほど彼女と同じように眠たくなるのも無理はないというもの。
もっともベルの場合は出会った頃から眠たそうというかのんびり屋なイメージがあるが。
でもそんな彼女が何故か眠気に堪えながら俺に話そうとしている。
つまりそれは彼女にとって何かしらの伝えたいことがあるということ。
だから周囲の警戒を怠ることはしないものの。しっかりと彼女の言葉に耳を傾ける。
「私が言いたいのは普段からちゃーんと休んでるのかってこと」
「…………」
ベルの言っていることは図星だった。勿論それなりにクエスト以外の時間はあるし身体だって休めている。
なのにどういうわけかベッドに入っても眠ることは出来ず例え寝たとしても悪夢を見ているのかすぐにベッドから飛び起きて目が覚める。
こんな状態で休めているのかと問われれば答えはノーだ。
「あんまり頑張りすぎるないほうが良いよー。人生っていうのはランニングみたいなもんだしさ……序盤から頑張りすぎると息切れしちゃうかもじゃん」
「でも今は頑張らないと……みんなを助けなくちゃ……でないとみんな殺される。だから休むなんてことは許されないんだ」
「今は……か。その今ってのは何時になったら終わるんだろうねー」
「みんなが幸福になれば終わるんじゃないか……少なくとも弱者が全員救われるまで俺は諦めないよ」
その言葉にベルは驚いたようにこちらを見る。いや正確には俺を見ているようで別の誰かを見ているような気がしていた。
やがて何を思ったのかベルは呆れたように笑うと木の葉が落ちるのを見ながら呟いた。
「ヘカテイアとナギちゃんって似てるよねー。同じことヘカテイアも言ってたよ」
「だろうな。アイツは普段はどこか抜けているような言動をしているが誰よりも弱者の救済を求めている奴だ。それだけの信念が彼女の言葉にはある」
「そうだねぇ。ヘカテイアは全人類を救う……それだけを求めてずっと頑張ってるんだよー。何度失敗しても諦めることなく……ね」
それは何も彼女のギルドを潰されたことを言っているだけではないのだろう。
恐らくはギルドを作ったり俺と手を組んだりするより前に考え付く限りのあらゆる手段を彼女は実行したはずなのだ。
だがそれらも全て失敗。それでもヘカテイアは諦めずに何度も世界を救おうとしている。
ならば今度は成功しても良いんじゃないか? いや成功させてみせる……その為に俺がいるのだ。
「ヘカテイアがどれだけ頑張ってきたのかは分からない。でも全てが失敗だったとは思わない……少なくともエルピスのおかげで俺はみんなを守ることができる」
「エルピスを気に入ってくれて良かったよー。やっぱり使用者に気に入られる物を作ってこその鍛冶師だからね」
だらっとした態度は変わらないものの。やはり鍛冶師だからか自分の作った装備には誇りがあるようだ。
ならば説得するのは今だろう。俺は寝転がる彼女を見ながら口を開いた。
「これからも鍛冶師として俺たちに協力してくれないか?」
「それってもしかして私を口説いてるのー?」
「ベルの実力が必要だってことだ」
「あはは。別に心配することないって……面倒だぁとかイヤだぁとかいってたけど元々ヘカテイアとは協力するつもりだったし」
「そ、そうなのか?」
「腐れ縁だけどねぇ……ヘカテイアは私の家族みたいなもんだし放っておけないっていうかー」
それを聞いて安心する。どうやらヘカテイアの見立て通り彼女は味方になってくれるらしい。
さすがにエルピスのような装備は時間も資金も足りないので今は出来ないが彼女ならば上質な装備をいくつも作ってくれるはず。
そこまで考えた時だった。突如として緩やかな風が突風となり俺たちを襲う。
これは考えるまでもなく敵の奇襲。俺とベルはすぐに戦闘体制に入るとそこに飛び込んできたのは。
「これは丸太!? 丸太が接近しているのか」
目の前に現れたのは巨大な丸太。丸太は風に乗って加速しながらこちらに接近すると俺の身体に激突し大爆発を起こすのだった。
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