異世界ギルド革命~無能力のいじめられっ子はチートスキル持ちクラスメイト相手に女神から貰った《特化型チート装備》で無双し最強ギルドを設立、その後異世界にて革命を起こす~
老紳士
欠陥品と決められた日
目の前に見知らぬ光景が広がっている。鮮やかな色のステンドグラスに華美なシャンデリア、床には赤い絨毯が広がっておりそれはまるで創作物でよく見る教会のような場所だった。
いや教会のような場所というより教会そのものだと言った方が正しい。
実際に祭壇だってあるし十字架のようなものだってある。それでもようなと表現してしまったのは今置かれている状況に理解が追い付いていないからだろう。
「…………ここって」
まず頭の中で真っ先に浮かんだ疑問はどうして自分はこんな教会いるのかといった根本的なことだった。
それを確認する為に覚えている記憶の中から一番新しいものを思い出してみる。
真っ先に頭の中に浮かんだのは昼休みの光景。それはいつものようにクラスメイトの何人かから暴行を受けている記憶だった。
それは俺こと結城ゆうきナギトにとってはいつもの出来事。どうしてそうなったのかは分からない。
もしかすると俺の髪型が他の生徒と違って灰色という目立つ特徴があったからかも知れないし、自分自身があまり人と話すのが苦手だったという理由もあるのかも知れない。
何にせよ気がつけばクラスの皆と壁が産まれ、教室の生徒からは暗い奴だと言われイジメを受けるようになっていた。
嫌がらせから暴行までありとあらゆる屈辱的な経験を味わされて来た。
今日の昼休みだってそうだ。イジメの主要メンバー数人が俺の血液が細胞が汚れていると髪が灰色なのがその証拠だのと言って拳を振るってきたのだ。
そこまでは覚えている。だがそこから先がまるで映像が途切れてしまったかのように思い出すことが出来なかった。
何度も思い出そうと記憶を絞り出すこと数度目。俺はそこでようやく周囲がざわつき始めていることに気づく。
よく見ると人々が突然光と共に姿を現し俺と同じように困惑した表情を浮かべている。
光と共に人が現れる。その現実感のない光景に俺は驚くことしか出来なかった。
「一体……何が起きて…………」
そこまで口にした時だった。カツカツと俺たちとは違う甲高い足音が響き渡り痩せ型の男が現れる。
白色の長髪に細い目。その氷のような目に俺は……いや俺たちは固まる。
「これで全員と言ったところですかな」
この場にいる全員を見渡しながら感情のない声で呟く長髪の男。今こうして光と共に人が現れているというのにそれがさも当たり前と言わんばかりの様子だ。
そんな落ち着いた様子が気に入らなかったのだろうか少し離れたところにいる金髪の男が声を上げる。
それは聞き覚えのある声。嫌な予感がしてそこを振り替えるとイジメグループの一人である鮫島さめじまソラが細目の男を睨んでいた。
鮫島はイジメグループの主要メンバーの一人。そのイジメの頻度は他のメンバーより少ないが一番俺を嫌っているのは恐らくは彼だろう。
理由は分からない。だが俺を見る度にまるでゴキブリにでもあったかのような冷たい視線で俺を睨み暴言を吐き捨てていくのだ。
嫌悪を向けられて嬉しい人間などいない。だから俺もまた鮫島のことが苦手だった。
「アンタがこんな場所に呼んだのか? ここは何処なんだよ! 手錠もせずに拉致なんて随分と余裕だな」
「…………確かに呼んだのは我々帝国ですがこちらにも事情がありましてな。叫ぶのは話を聞いてからにしてもらいたいものです」
「話を聞けだって? アンタらの事情は知らないがね。こちとら学校があるんだお袋だって心配してるんだ! 言っておくが俺はサッカー部なんだぜ?」
そういって鮫島は蹴る素振りを白髪の男に見せ付ける。これがきっと彼なりの虚勢なのかも知れない。
「はぁ……これだから子供は…………仕方ありませぬな」
男は溜め息と共に咳払いをすると教会の扉からぞろぞろとボウガンを持った男たちが現れる。
それを見て鮫島もさすがに異常だと分かったのか息を飲んで固まった。
「貴方が何者であろうと飛び道具には勝てますまい。それでは静かになったところで説明よろしいかな?」
細目の男は静かになったことを確認するとこの状況について語り始めた。
細目の男ーーアイスローズの説明で分かったのは以下の通りだ。まず俺たちのいる場所は元々自分達のいた世界とは違った異世界だということ。
そして異世界には魔物という化け物たちが暴れておりそれを退治するために俺たちが呼ばれたらしい。
それは普通ならばとても信じられる話ではない。魔物がどんな奴等なのかは分からないが話を聞く限りそんな化け物を俺たち学生が倒すことなど不可能。
だがそれはあくまで俺たちの世界での常識。この男の話によると俺たちには異世界人にはないスキルと拡張力という能力が備わっているのだという。
「俺たちが呼ばれた理由は分かった……だが魔物はこの世界で起こっている問題だ。自分の問題ぐらい自分でーー」
「こっちが話してるんだぜ? 勝手に話すなっての!」
「ちっ…………」
あまりにもの理不尽な状況に思わず言葉を挟んでしまい鮫島から反感を買う。
鮫島は自分より先に俺が言葉を話したのが気に入らなかったらしい殺気混じりの鋭い瞳でこちらを睨むとすぐにアイスローズへと向き直る。
「ナギトの言葉を借りるわけじゃないがそりゃアンタらの都合だろ? だったらアンタらが戦えばいい」
「勿論私たち現地人とて戦っております。ですが転移者には武装を操る拡張力と強スキルが使えるのです」
「そういうことを言ってるんじゃないぜ! どうして俺たちがわざわざアンタらの為に戦わなくちゃならない!」
それは他のクラスメイトや転生者たちも同様の感情を抱いていたらしく口には出さすとも不満げな表情を浮かべている。
しかしこれが初めての異世界召還というわけでもないのかアイスローズはまさに氷のような表情で口を開いた。
「何も私たちの為などと考えなくとも良いのです」
「なに?」
「勇者として名を馳せれば地位に金貨も与えられましょう。そうすれば国王に頼んで今回のように貴殿方の世界から家族を呼び出すことも可能なのです」
「……つまり俺たちが国を利用しろって?」
「ご家族に見せたくはないですかな? 勇者になった自分の姿を」
「お袋に立派な自分の姿をねぇ……。オーケー! アンタの話乗ってやろうじゃん」
アイスローズの言葉に周囲が騒がしくなる。その中には鮫島のように勇者になろうと血気盛んな者もいたがそれはあくまで少数。
大半はどちらかというとこの現状を受け入れるしかないと諦めているようだった。
「では早速……君たちがどのようなスキルを持っているか検査をさせてもらいます」
アイスローズはそれだけ言うと指を鳴らして検査員を呼び出し転移者たちのスキルを解明し始める。
そんな光景に大勢の転移者が不安がる中で俺は淡い期待を抱いていた。
それは自分がこの灰色の人生から抜け出せるのではないかといったそんな期待。
アイスローズは俺たち転生者に強力なスキルが使えるといった。つまりそれは俺にもそれなりに戦える能力を身に付けられるということ。
その能力次第ではイジメを防ぐことだって出来るかも知れない。
だがそんな淡い期待は僅か数分足らずで破られてしまう。でもそれはある意味仕方のないことなのかも知れない。
俺は現実世界でも家族やクラスメイトから一方的に暴力を受けている弱者だった。
それは転移したところで代わりはしない。だからこの結果はある意味当然のことだったのかも知れない。
「……結城ナギト。スキル……無し。無能力者と判定」
「……なっ」
検査員の言葉に俺は固まるしかなかった。
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