十四、結論

 捜査会議で捜査の終了が告げられた。まだ細かいことは残っているが、大勢で捜査することが無くなって心が少し軽くなる。後は、ほかの人間がやるとして明日からまた別の件に取り掛かることとなった。

 遠藤綾梅えんどうあやめ、鷹橋カケル《たかはしカケル》、そして、川本蒼桜かわもとあおいが、一人はこの世無きものとなってしまったが、無事発見、保護された。詳しい聴取も終わりそうだった。

 一連の事件の犯人、関和夫せきかずおと言えば、誘拐、殺人、未成年との性行為、他余罪で刑務所に入れられることとなった。罪を重ねたが故に、懲役年数も長くなっていた。刑務所に送られる前、やつれた関は最後に祖母のことを尋ねた。我々は首を横に振るしかなかった。涙ながらに連行されていった。

 聴取の際、関が遠藤綾梅に向かって悔恨を吐いていた。それが、我々の掴んだ証拠であり、鷹橋のある仮説の裏付けにもなり、関和夫をそうさしてしまった原因として証拠とされた。

 どうやら、関の吐かれた悔恨とは、過去実父のあきら遠藤修二えんどうしゅうじの娘、綾梅が関係しているらしかった。

 彰はどうやら、綾梅をレイプしたらしく、それが事件として警察署内に響き渡った。無性に腹が立った、本人はそう言っており、レイプ出来れば誰でも良かったらしい。しかも、被害者が遠藤の娘とは知らなかったらしい。現場に遠藤がすっ飛んできて、酒に酔っていた彰は我に帰り罪悪感で一杯だったらしい。2人は掴み合いの喧嘩をしていて、2人は言い合いになったとき彰はのあることを口走ってしまった。それが、署内で噂になった。後に彰は警察を辞職し、修二は回った噂のおかげで降級となった。

 では、噂とは何だったのか。

 関彰の妻だったはるかと、遠藤修二はどうやら不倫関係にあったらしい。しかも、子供を2人も生んでいた。

 発端となったのは関夫妻の完全別居状態だった。当時彰は若く仕事一筋で家にほとんど帰っていなかった。和夫も大きくなっており、子育てに苦労していたはるかは段々と家庭に嫌気がさしていた。

 終いに、堪忍袋の緒が切れたのか、はるかは祖父母に和夫を預けて、居酒屋で酒をしょっちゅう飲んでいた。そこで、遠藤修二と出会った。まだ、若く遊び足りない二人は何度か会う内に、やがてホテルに通い始めた。

 軽い感情が、徐々に膨れ上がってやがて愛になり、長女の七椿を秘密裏に出産した。そのとき、完全に関家庭はばらばらであり、三人とも違うところで生活していた。彰は警察署内で寝起きする日々を、和夫は母の存在など特に感じることなく祖父母に支えられて中学生を迎えて、はるかは修二との間に出来た子供を養うためにパートをしながら、借りたアパートで修二と一緒に暮らしていた。

 そんな中、上司からの紹介で修二は婚約をする。2人のあいだに亀裂が入ったかと思われたが、修二は妻・百合ゆりに嘘をついて、会うことをやめなかった。頻度は落ちたものの、それでも家で会って行為に及んでいた。

 日常の密会をしている中で、百合の所望により結婚して間もなく、修二と百合の間に長女の綾梅が誕生した。かねてから、百合は子供が欲しいと修二を急いていた。修二も、美人な妻との子供はさぞかしかわいがろうとせっせと子供を作った。

 頻度は徐々に減っていく中でも、やはりはるかと修二の密会は終わることが無かった。刹那、誤って膣内に射精してしまう。そのとき、はるかは妊娠してしまう。次女の蒼桜が誕生した。

 二人はもうこれ以上会うのは危険と感じて密会を止めようと決意した。しかし、そのときにはもう遅く、彰は二人の関係を見てしまう。激怒した末に、何年もの争いになった。

 話合いの結果、和解となったが関夫妻は離婚、バディの解消となった。このことが署内で話のネタとなり、誰かが根掘り葉掘り調べた挙句、不倫の話が出回った。

 和夫は父に付いて行き、はるかは二人の子供をつれて田舎の郊外へと逃げた。はるかの父母に泣きつき、旧名の川本を名乗った。

 和解したのに彰はまだ怒っていたために、あの事件を起こしてしまった。

 そこで、和夫は事件の犯人を彰ではなく、綾梅と思ったらしい。その時には、大学生もあって祖父母から彰のことについて聞かされていた。

 あの仕事熱心の父が。下らない大人二人に騙され続けた父が。犯罪なんて犯すはずがないと。和夫は直感した。どうせ、思春期で性欲が高ぶって、大人をからかって金を巻き上げたかっただけだろう。

 和夫は訴えたが、裁判で明らかに彰が強引に服をはぎ取る映像が証拠として出されて、やむなく敗訴した。

 その頃、彰は警察を止め、遠くに引っ越し工場で勤め始めていた。和夫は祖父母の応援、父の応援のもと大学を無事卒業。某大企業に就職して業績を上げていった。

 順風満帆に見えていた和夫には、段々と遠藤綾梅への恨みが大きくなり、殺人計画まで企てていた。詳細に調べ上げ、いざ実行しようとなると妻のミチルと結婚する。

 本人は大してする気も起きなかったし、女になど興味は無かったという。しかし、ミチルは署内では生粋の面食いとして有名で、死んでも離さない勢いだっために押し切られたそうで、計画を一時断念せねばならなくなった。

 夫婦とは何だろうかと考えるうちに、和夫はミチルとの生活に浸ってた。両親は別居してたし、初めて女の存在を感じる。和夫は、生涯を通じて、女の人と付き合ったのはミチルだけだった。

 夫婦に成れば、することはするものであり、和夫は初めて女の裸体を見たとき、遠藤綾梅にも同じことをしたいと思ったらしい。そんな願望も、目の前の裸体には弱かったらしくどっかに置き忘れて、ミチルの裸体に夢中になったそうだ。

 子供が予想外にも二人出来てしまい。殺人計画への欲望は日々を地獄にさせた。

 しかし、地獄に終わりがやって来た。電車通勤の途中たまたま彼女を見かけた。日常からの欲望で、いつでもナイフを持っていた和夫はチャンスを逃さずして、彼女へと付いて行った。

 彼女は廃屋へと入って行き、何やらスケッチブックを広げ始めた。

 隙を狙って気絶させて、両手、両足を縛って、レイプした。殺した後もそうしたらしい。

 晴れて殺人計画も終わり、気分は爽快だった。新たに、人を殺したくなったらしく、カモフラージュを建前に、和夫は夜通行人を買った包丁で殺した。

 これが、我々の掴んだ証拠の全容であった。遠藤修二、関彰・和夫。そして、川本七椿・蒼桜の話を我々で並べたものだ。

 そして、鷹橋カケルの聴取の際、彼に話した。

 やはりと頷いた鷹橋は奇妙な仮説をしゃべり始めた。

 「つまり、この事柄は遠藤綾梅が川本蒼桜に取り憑いて起きた珍事件だ。」

 鷹橋は平然と言ってのけた。何やら、本で見たことがあるらしい。

 血脈関係において、稀に死者の霊が生者の身体に乗り移ることがある。

 鷹橋はどうやら、本気とはわからないが信じているらしい。鷹橋はそうでなくては、あの彼女のおかしな状態を説明出来ないと言った。

 確かに、我々の目で見ても、鷹橋と一緒に映っている川本蒼桜は異常に見えた。

 しかし、それを裏付けする証拠はないし、乗り移っていたと考えられる遠藤綾梅はもうこの世にはいない。遺体に聞いても返事は無いのだ。

 「じゃ、この事件をどう説明すればばいい。形式的に我々は処理することしかできない。」

 「当然ですよ。刑事さん。」

 我々は鷹橋の開き直った返事に変な声が出た。

 どういうことを図って、その話を説明したんだ。もうすでに、事件は形式的に処理されている。新たな証拠として提出するにも、お偉い方に酷く怒られる。

 一人の刑事が鷹橋に問うた。

 「じゃ、どいうことだよ」

 間を取って、話し始めた。

 「この事件は、2人の大人が醜くも二人の都合で、結果、四人の子供を不幸にさせたに過ぎない。その子供たちが恨み恨まれ、殺人へと発展した。大人たちはどいつもこいつもクズになって、身勝手に狂った。加減が利かなく、自分を防衛している気分になって、実は自己欲求を満たして、他社を傷つけているだけだ。取り憑かれたように、まるで人形みたいに踊り狂った。果てには、他者さえ巻き込む始末さ。この超常現象は証明不可能であり、残るのはこういう腐った大人の部分だけ。誰かの身体を欲し、それを我がものとしたくて、人を様々な手で殺した。いわば、単なる内輪もめに過ぎない。何かが憑いたようにそれぞれが操られていたのです。」

 同じ穴から声が聞こえてくるようだった。

 

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キツネ憑き 辛口聖希 @wordword

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