十三、証明完了
捜査員に怒号を浴びせ勝手に捜査から外したり、誰かが見つけた証拠をまるで自分が見つけたように報告するなど、悪質極まりない言動が当時の捜査関係者からわかった。
どちらとも、子供がいる。その遠藤の娘は現在行方不明であり、操作が行われている。思うような進展はなく、行方不明になった場所が曖昧なのもあり、捜査は暗礁に乗り上げていた。だが、誘拐容疑で取り調べを受けている鷹橋カケルが持っていたカメラによって現場は判明し抑えることができた。
犯人はどうやら、最近起きた通り魔事件を別に逮捕していた関和夫だった。和夫の実の父は彰だった。
関が吐いた悔恨は、過去に関彰と遠藤綾梅が関わっていることが原因だった。
過去に2人は路上で性行為を行っていたという。目撃者が通報した時にはもう事後であった。直ぐ現場は抑えられ、取り調べの結果、二人とも過度な飲酒により状況が判然としなかった。
最終、遠藤綾梅は過去の犯罪歴もあり少年院へ、関彰は未成年との性行為の容疑で降級された。後、自ら退職を願い出たそうだ。
和夫はうやむやであった状況に腹を立てた。思春期で欲情してただけじゃないか、と訴えたが監視カメラの映像では僅かに関が行為を強制しているらしき姿が捉えらており、敗訴した。
彰は工場に順次、息子も貧困に陥った末に離婚した父について行き、父と同じ工場で働いた。彰は過労とストレスに倒れて。去年ぐらいかに死去していた。
彰の死後、和夫は復讐を誓ったという話だった。妻・ミチルとの間には二人の子供もいるという中で、時間をかけて遠藤綾梅を探し出して殺害した。
興奮と狂気に満ちた心はやがて遠藤を可笑しくさせた。本人も自供していたことだが、あのときは何かが切れたみたいに急に子供心は蘇ったとかで、遠藤綾梅を殺害前後にsexに及んだ。
これが全ての事件の全容だった。
一安心ついたところで、部下が悲痛な知らせを持ってきた。大人しくしている関に知らせを告げた。
関は取調室に響き渡るように泣いていた。彼が通り魔で殺した人間は、彼の祖母だったそうだ。
ホテルを早くに出て、時刻はすでに昼を回っていた。
彼女の帰り道はもう終点を迎えそうになっていた。このまま、見つかりそうもなく、彼女は泣きべそをかきかけている。
昼ごはんも軽く済ませてしまったがために、お互い思うように身体に力が入らない。彼女は頭痛を訴え、小まめに立ち止まっては休憩を取った。陽はそんなことを知らずに一歩一歩確実に進んでいた。太陽が真横から指す前のことだった。
綺麗めな廃屋が現れた。そこは、ネットには載っていない壊される予定のあるところだった。敷地脇にはフェンスが立てられており、今まで通りに入れそうにない。ぐるっと一周できる道が続いていて、あるフェンスの端が大きく歪んでいたのを見つけた。丁度、建物の影にかけれて一瞥しても判別は付きにくいところだった。
彼女は興奮と緊張の混じった息をしている。なぜなら、ここが最終力候補に浮上したからだ。彼女の記憶に残っている廃屋の特徴を、全て持っていた。
年月が経ってコンクリートがボロボロになっているように見えても、回ってきた廃屋より新しい感じに見える。植物もまだ背の高さ位にしか伸びておらず、建物を支配していない。
廃屋に入ろうとして気付いた。ここは、一度解体がストップしているらしかった。フェンスに掛けられている計画書にはだいぶ前の年日が書かれていた。トラクターも、ショベルカーも時間が止まっていた。中途半端に崩れた壁は人口に出来たもので、自然より劣った印象を受けた。
中はどんより暗く、外の景色がわからない。また、外からも中の様子がわかりにない。
深部に近づくにつれ、スマホのライトが必要になった。外は日が昇って少しは温度があるように思われたが、ここは場違いに底から冷えそうな冷気が漂っていた。彼女の疲れた顔が薄暗い中で儚く見えた。そして、何かを嗅いでいる様子であった。
鼻を動かして、動き回っている。まだ、お目当ての匂いがないのか、彼女は眉を顰める。
「ここだと、思うんだけどな」
力なくそう答えたとき、ライトの末端に靴が映った。カメラはナイトビジョンに切り替えてはいたが、映っていない。
近づくと、それは、大きく足の開いた、女の死体だった。
腹にはナイフが刺さっており、服もズボンも脱がされていた。胸ははだけてブラジャーはまとっておらず、一部が赤くなっている。乳首は何度も噛まれたせいなのか、凹凸が見えて鈍く光っていた。
下半身は悲惨なことに陰部が丸出しだった。それに、周りに白い何かがこびり付いていて、真っ赤に染まっていた。
冷静に見ている自分が可笑しかった。
彼女はそっと死体に歩み寄り、見開かれていた目をそっと閉じさせた。まるで、赤ん坊のような恰好の女の子を綺麗な身なりに直していた。
綺麗になった女の子は、血の抜けた白さであり、絵具では表しきれない美しさがあった。
肌は透明で、まだ細胞は生きているように感じられた。
彼女は死体の傍らにそっと座り、涙を流した。絞っていた声は次第に大きくなった。嗚咽はひどく、息もできていない様子を僕は黙って見ていた。
悔しさが混じった涙や声は、死体の上にかぶさった。突き刺さったナイフは彼女の嗚咽と共に静かに微動していた。
微かに空いた穴から、夕日が強く緋色を刺してくる。
夕日が沈みかけていた。彼女は顔を上げ、泣きならした顔をこちらに向けた。目からはまだ涙が零れていた。
「ありがとう」
嗚咽なのか、涙声なのか、わからないがそう聞こえた。
泣いている彼女は次第に、力なく倒れていきしまいに寝息を立て始めた。
日が沈み、闇に残った彼女を起こすと、きょとんと起き上がった。
ひっ、飛び上がって僕に隠れた。死体を見て怖くなったらしく、僕を捕まえているその手は震えている。全身に恐怖が回り、顔を僕の身体に埋めていた。
「ここは、どこ?」
幼い声が聞こえた。どうやら、「彼女」は消えたらしかった。震える手に向いて、膝を折る。
「ごめんね。怖いよね。さぁ、帰ろう。お姉ちゃんが心配してるから。」
彼女の手を握ると、生命の温かさが伝わって来た。彼女がこれ以上、この場を見ないために、そっと身体を寄せて歩き出す。
夜になった道を歩いている間、彼女はびくびくと震えていた。それでも、懸命に質問をしていた。
私は何でここに居るの?なんで、あそこに死体があったの?私が殺したの?お兄さんが?なんでカメラを持っているの?あのお姉さんは誰?
元気が戻ったのか、声がはっきりしてきた。
「もしかして、お姉ちゃんが言ってた人?鷹橋カケルさん?」
「そうだよ、よくわかったね。」
「はぁー、安心した。これで、言い訳が出来る」
「言い訳とは、何だい?」
彼女は顔をむすっとさして、僕を見た。聞いてくれるな、と言いたいらしい。
「どうして?」
笑って言うと、彼女もくすっと笑った。
「そんなに聞きたいかな?しょうもない話だよ?」
「ぜひ聞きたい。」
答えると、彼女は笑って答えた。
「ちょっと、お姉ちゃんと喧嘩したの。」
平和な痴話喧嘩がそこにはあったらしい。それは、このしばらく忘れていた何もない日々だった。僕は一瞬帰郷した気分になった。
「そうか、それで出てきたわけだ。」
うん、とかわいらしい声を出した後。今までのことは何も覚えていないと、呟いた。
結果論、憶えていない方が幸いだ。来る日も来る日も、カメラに収められ、どんな姿を晒しても記録されてしまう状況なんか、彼女が憶えていて欲しくないと思った。
「でも、お母さんを、見た気がする」
触れてはいけない現実のベールが、今にもはがれそうになっているのを僕は無呼吸で眺める。お母さんと呼んでいたから、一時的に我に帰ったかもしれなかった。記憶は曖昧であるが、見たことは憶えているらしかった。
僕は、彼女の言葉を濁した。
「夢なんじゃない?会いたくて、出てきたのかもよ。」
「それ本当?夢ってなんか説得力無いけど」
ついでに、小説を書いていることを馬鹿にされた。どうやら、はなちゃんは気付いていたらしく、様子を見ていたらしかった。原因を聞くと、本があんなに増えていたら可笑しい、と当然のことを言われた。
駅について、電車に乗る。もうすぐ家だった。しかし、その前によるところがあった。
カメラは遅い夜を映していた。煌々と窓が光っている。警察から眼をつけられているのは、はなちゃんからのメールで知っていた。建物に入って自分の名前を名乗り出た。
後ろに付いてきていた彼女は保護された。
僕の名前が建物に響いた。僕は、複数の男に取り押さえられた。嫌疑は誘拐と殺害だった。
床に伏せられているこの状況が可笑しくて、笑った。笑いながら、疲労を感じて寝たいと思った。
全て再生が終わった。何日かに分けて再生された映像は、皆を黙らせる結果となった。
署内の一部の人間はまだ鷹橋を疑っているが、風呂、トイレさえもデータの裏付けが残っている以上疑う余地は理性的に消えてしまう。
さすがにここまでの旅を強いられ、自分の見た景色を再び見せられると、さすがに疲れるだろう。鷹橋は申し訳程度に口を開けて、あくびをしていた。
昼に差し掛かってようやく終わった再生は事件を不気味なものに変えていた。皆が顔を突き合わせ、ありえないと嘆いている。超常現象が目の前に保存されており、信じたくとも、処理が追いつかない。
嫌疑の晴れない鷹橋だが、映像を見る限りでは無罪確定であり、一時釈放となった。後日、改めて聴取することとなった。
後輩たちは、どんよりとした目で、鷹橋と
いいっすね、彼女。それだけを言って、眠そうな目を擦ってだらだらと仮眠室に転がった。
時間が来れば捜査会議が行われる。どうやら我々の掴んだ証拠が、事件の最後を華やかにしてくれそうであった。
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