ヒーローとの対面

 なんということだ。

 一度のみならず二度までも、クリメラがやられてしまった。


 いや、まだハッキリとクリメラJrの死亡を確認した訳ではない。

 ではないが。

 さっき吹っ飛んで行ったのは十中八九クリメラだった。


 だって尻尾あったし。

 あの空間で尻尾を生やしているのなんか怪獣くらいのはずだ。


「どうした、暖人」


 何も見ていないクサビはようやく視力が回復したらしく、ぱちぱちとまばたきをしながら呑気なことを聞いてくる。

 さーて。どうすっかな、これから。


「あなた達、そこで何をしているんです?」


 不意に下から声が響き、屋上の縁から覗き込む。

 と、そこにはさっき人間大に縮んだ巨人が、そのままのサイズで立っていた。

 マズイ、見つかったか!?

 というかここ五階だぞ。何故下から見つけられる、何故ここまで声が届く!?

 正体がバレたら我々まで退治されかねん。

 ここはひとまず撤退を。

 下まで声が届くのか、と思いながら弁明のために声を張り上げる。


「いや、俺たちはただすごい音がしたから、何があったのかと」

「我々は侵略者だぁ!!」


 クサビさーん!?

 何言っちゃってんの!?


「何?」


 顔は着ぐるみのマスクのようになっていて表情は見て取れないが、明らかに驚いている。

 が、まだ疑っているようなので、この子馬鹿なんですと説明して逃げよう。

 事実なので信じてもらえるはずだ。


「クリメラの仇は取らせてもらうぞ!」


 おいおいおいおい、さらに何を言ってんだ!?

 そもそもお前さっき飛んで行ったクリメラ見てないだろ!?

 ……いや、違う、前回のことか。オリジナルのクリメラのことを言っているのか。

 いずれにしてもマズイ。

 幸いにもあいつはまだクリメラが何かも分かっていない様だし……


「クリメラ?」

「お前に倒された怪獣だ!」


 わー、俺抜きでどんどん話が進んでいくー。

 こういう時、頭で色々と考えてから物を言うタイプは不利だな。

 とにかくどうにかして止めようと思っても


「あだっ……くさ、おちちつつ……」


 しか言えないもんな。


 悪の組織の幹部とヒーローの初対面イベントが、こんな所で図らずも開始されてしまった。

 何が嫌って、悪の幹部側の服装がジャージなんだよ。


「なるほど……お前らが黒幕か」


 今更だけど、ヒーロー喋るんだな。

 名前を知らないので呼び方が安定しない元巨人は、深く腰を沈めると、次の瞬間高く飛び上がり、俺たちの十メートルほど先に降り立った。

 いや、ここ五階なんだけど。

 何サラッと飛び上がって来てくれてんだ。身体能力アピールかクソ。


「それなら、お前らも倒すぞ」


 殺意が高い。


「いい度胸だな」


 こっちも殺意が高い。

 何お前、いっつもそんな感じじゃないじゃん。

 張り切りモードのクサビが銀の装甲を装着する。


 どうにかして争いを止めたい。

 そんなヒロインみたいな思考の俺は。


「あー、ちょっとすまん」


 二人の間に割って入り、ヒーローに向かって何も持っていない手を挙げて無害アピールをしながら語りかけた。


「とりあえず、自己紹介から始めないか?」


 だって、呼び方も分からないままじゃ、ねぇ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る