一度冷静になってみよう

 朗報。

 ガラスは無事に元に戻りました。

 弁償も、ご近所からの不信感も一切発生しておりません。

 俺も無事に目覚めることが出来ました。


 気がつくと部屋の中にいて、体中どこを見てもかすり傷ひとつない完品になっていました。

 クサビが俺を部屋まで運んでくれたりと、ここに至るまでの経緯を聞きました。どれくらい血が出てたかなんて、そんなことは考えたくもありません。


 日没にはアカナの設計図修正も終わり、明日から怪獣作りを本格的に開始するということで、今日はもう寝ることとなったのだが。


「あー、痛い……いや、痛くはないけど、なんだかなぁ、違和感というか」


 俺はどうも寝付けずに窓の外を眺めていた。

 全く見なれない街の景色。

 未だに全く現実感が湧いていない、一週間と少しの忙しない日々。

 気がつけば年が明けていた。


 世間は正月なんだよなぁ。

 テレビも無いし外にも出ていないから全くそんな気がしない。

 この一室と俺の意識だけが、社会の中にあって社会から切り離されている。


 夜風にあたって頭が冷えたのか、急に冷静な思考が顔を覗かせる。

 宇宙人と地球侵略ってなんだ。

 何故そんなことになっている。

 そもそも何故俺が。


 ずっと頭の中を巡っていながら、全く正面から向き合ってこなかった疑問が、今更のように火を噴き溢れ出した。

 我ながら馬鹿すぎる。

 面倒を後回しなんてレベルじゃないぞ。


 そもそも俺は世界征服なんて考えるほどの動機があったんだっけ。

 そりゃ世間に対して思うことはあったけどさ。

 侵略なんか、しなければならないほどのものだったか。


 自分はずっと普通ではないと思っていた。

 世間とズレた、普通になれない異物なのだと。


 今この異常な状況の中で、自分が案外凡人だったことに失望した。

 安心は出来なかった。


「眠れないのか?」


 思考が不意に途切れる。いいとこだったんだけどな。

 振り返ると、不眠の原因がそこに立っていた。


「お前もか?」

「お前が起きてる気配があったから、寝床から抜け出してきた」


 軍隊らしい服ではなく、ジャージを寝巻きとして身にまとったクサビが、隣に座ってくる。

 人間への擬態と同様、服も何らかの宇宙的テクノロジーで作っているらしい。何故ジャージなのかは不明。


「こんな時間に男の横に来るなんて、押し倒されても文句言えねえぞ?」

「それが地球の常識か? でもお前が押し倒すとしたら、私たちの本来の姿の方だろう?」

「大正解」

「……おちおち擬態も解けんじゃないか」


 そんなやり取りで軽く笑う。

 笑っていられる。


「なあ、クサビ」

「なんだ?」

「どうして俺に、地球侵略に協力しろなんて言ってきたんだ?」


 分からないことは、聞いてみるのが一番だ。

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