宇宙人と話そう

「どうして俺に、地球侵略に協力しろなんて言ってきたんだ?」


 分からないことは聞いてみるのが一番だ。

 そう思ったのだか。


「ふぇ?」


 ピンと来てないのか、間抜けな返事だけが夜の静寂の中に響いた。


「今更?」


 聞かなきゃ良かったかな。


「まあ、少し気になったからな」


 ふーん、と呟きながら、釈然としない様子でぽつぽつと言葉を発する。


「前にも言った通り、地球人のことをよく知ってる奴に作戦を立ててもらうためだよ」

「宇宙人の技術を使えば簡単に武力制圧できただろ」

「それで地球が焼け野原になったら侵略する意味がないでしょ?」

「自分たちで人間のことを調べて作戦を立てた方が、リスクがないんじゃないか?」

「それは時間がかかるから」


 なるほど、一応筋は通っているか。

 しかし、それならば。


「じゃあなんで怪獣で街を破壊するなんて馬鹿みたいな作戦を採用したんだ? 武力制圧もどきだし、人間社会の侵略に適しているとも思わん。この際ハッキリ言うが、俺の趣味だ」


 あ、顔。

 クサビさん?

 顔が面白いことになってますよ。


「何かあるんだろ? 事情が。仲間なんだから聞いときたい」


 何か迷っているらしく、忙しなく上を見たり横を見たりしている。

 しばらく目や口がぐにゃぐにゃと動き回っていてなかなか退屈せずに見ていられたが、やがて意を決したように口を開いた。


「私たちの本当の任務は地球侵略じゃない、その前段階の、言ってしまえば斥候みたいなものなんだ」

「偵察か」

「そう。だから大々的に武力は使わない。というか使えない。兵器を使う権限がないんだ」

「じゃあなんで侵略なんか」

「この任務には、どんな基準で人選がされたと思う?」


 突然全く関係のないような質問をされ、少々面食らう。

 まあ、これが彼女なりに筋道を立てて話した結果なのだろう。

 好意的に解釈して質問に答えることにした。


「そうだな、全く知らない環境の調査なんだから、特別に優秀な奴とかか」


 それを聞いてクサビは少し満足気に微笑んだ。

 予想通りの回答、ということか。

 頭が弱いくせに生意気だ、とガキ大将のような感想を抱かないでもないが、その微笑みがなんだか寂しげなものに見えたので言葉にはせず飲み込んだ。

 普段とはガラリと印象が変わる、見慣れてきた顔の見慣れない表情。


「地球人はそうかもしれないな。でも私たちの星では逆なんだ。未開の地には、まず死んでも困らない者が送られる」

「あー、お前らは死んでも構わないと判断されてここに送り込まれたと?」

「そうだ」


 残酷なようだが、なるほど合理的でもある。

 彼女は、彼女らは、故郷に捨てられたのか。


「私はな、力が強い方だ。人類で一番だと思ってる。でも使い方が下手だ。文明社会じゃ個人の戦闘力なんかいらない」

「お前らの星にはスポーツはないのか?」

「地球でも、スポーツは相手を傷つけないようにやるもんだろ?」


 その時、俺は窓の外を眺めていて、彼女がどんな顔をしていたのか分からなかった。

 ただ、その声はいつもの甲高い、よく響く声ではなかった。


「だから私には、私の力を上手く使ってくれる誰かが必要だった」

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