格好付けてみよう

 クサビはいつもより歯切れが悪かったが、いつもより少しだけお喋りだった。


「アカナは、頭はいいけど臆病で逃げ癖があるんだ。考えてることはあっても、それを外に出せない」


 まあ、そうかもな。

 今日も作業しながら半分泣いていたし、何度も投げ出しそうになっていた。

 だが書き上げた設計図の質は確かだった。

 地球人目に見てだが。

 あとまあ、一人用のゲームの習得は早かった。


「ジキは技術者としては優秀なんだけど……まあコミュニケーション能力というか、他人に興味がないせいで色々上手くいかない」


 全くもってその通りだ。

 目の前の食い物にしか興味を示さず、ずっと黙っていて何を考えているやら全く分からん。

 だが設計図が描き上がるよりも前に材料の選出を終えている。

 そして今本棚に飾られている、片手間に作ったあの道具。


 ジキの腕の確かさを感じさせる。

 この道具については、いずれ披露の機会もあるだろう。


「まあ、左遷みたいなもんだな。私たちがここにいるのは」


 左遷どころか、まるで戦場の最前線に送り込まれる奴隷兵だ。

 そんな物言いが出来るわけもないが。


 少しの沈黙を挟んで再び口を開いた時、クサビの声のトーンはいつも通りに戻っていた。

 そして彼女は演説をするかのように立ち上がる。


「だからこそ、私たちは上を見返してやるつもりでいる」

「それで侵略か?」

「そうだ。斥候任務だけのつもりで行かせた私たちが地球を侵略して見せたらどうだ?」

「泡吹いて卒倒するかもな」

「それは見てみたいな。だが私たちは言ってしまえば落ちこぼれだ」

「言い切ったな」

「敵を知る前に己を知るんだ。それに持っているリソースにも限界がある」

「そこで協力者が必要だったと」

「そういうことだ!」

「夜中に近所迷惑だぞ」


 クサビは照れたように笑って、その場にぺたんと座り込んだ。


「でも正直少し怖いんだ。お前も、巻き込んでしまってすまないと思ってる」


 クサビが、珍しく殊勝なことを言うものだから。


「弱音を吐くな、お前は侵略者だろ?」


 指を小さな口の前に立てながら、そんなキザなことを言ってしまった。


 我ながら似合わない。

 だが、お前はいらないと、そんな風に放り出される気持ちは少し分かってしまったから。

 新しい一面を知ってしまったから。

 だから少しだけ、この場の空気に流されてみたんだ。


「ああ、そうだ」

「よし。まあせいぜい頼りにしてくれ」


 そこまで言ったところで、なんとなく落ち着かない気持ちになって。

 さっさとクサビを追い出して布団に潜り込むことにした。


 今夜はまだもう少し、寝付けそうにない。

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