宇宙人は怖い
思えば俺は子供の時からどこかズレた子供だった。
ヒーローが出てくる作品、は悪役の方が好きだった。
悪人たちの野望が成就することを願って、ハラハラしながら画面に齧り付いていた。
悪役がヒーローを追い詰める。
いいぞいいぞと思いながら、手に汗握って笑顔を顔に浮かべる。
そして、次の瞬間、見事ヒーローを撃退するシーンを期待するのだ。
だが、最後には悪役はみんな倒され、彼らの野望は悉く打ち砕かれていった。
悪が正義に打ち勝つことは、ついに無かったのだ。
周りの子供達には変なやつだと言われた。
他の子達とズレていた。
その小さなズレはやがて大きな歪みになり、どうしようもなく大きくなっていた。
歳を取って多少は表面的に取り繕うことを覚えたが、それでも根っこの所は変わらないまま、気付けば俺は……。
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「つまり、要約するとこういうことか」
こめかみに銃を突きつけられた状態で聞いた話を確認する。
「お前らの星は地球よりも長い歴史を持っていて科学も発展しているが、星の寿命が迫っているため他の惑星への移住を計画した。そして自分達が住むのに丁度良い環境の星として地球を見つけ、本格的な移住の前に君たち三人が先行部隊としてやって来たと」
「まあとっても簡単に言ってしまうとそうなんだけど、そろそろどいてくれない? もう三十分以上この状態なんだけど」
下からクサビの非難が飛んでくる。
「ええ、ですが我々の任務はもう一つ。現在の地球人との共存は不可能だと本国で判断されましたので……」
「地球を侵略するから俺にはその手伝いをしろってことね……」
「飲み込みが早くて助かります」
えーと、どうしよう。まさか地球侵略の手伝いをさせられる立場になるとは。
人生何があるかわからないもんだなぁ。
しかも俺が選ばれた理由が侵略者に詳しいことと、さっきの「人類滅ばねえかな」発言で素質アリと認められたからだと言うから笑えない。いや、笑うしかない、か?
「首を縦に降ってくだされば、我々はあなたを最上級の待遇をもって迎えます」
ふむ、これ断ったらどうなんだろう。
「ちなみに、返事がノーなら機密保持のため、この場で抹殺します」
脅しじゃねえか!
ねえ、それ脅しって言うんだよ!?
「あの、この状態でやられると私が血で汚れちゃうんだけど」
「尊い犠牲ですね」
「ひえええええええ」
血も涙もないなぁ。あ、でも映画でも侵略者の宇宙人が涙流すことほとんどねえな。
全く、何でこんなことになっているのか。
「人類滅ばねえかな」なんて軽々しく口にしたさっきの俺を殴ってやりたい。
いや、さっきの俺もさっきの俺で今の俺に怒って来そうだな。無責任とか羨ましいとか。
はは、おもしれー。自分同士で喧嘩してるよ。
「で?お返事は頂けそうですか?」
おっと、額に掛かる圧力が強くなった。
そうだった。現実逃避してる場合じゃないな。
既に俺の腹は決まっている。
だが、最後の理性がその選択をすることを食い止めている。
まあ、早く答えなければいつ頭が弾け飛ぶかわかったものではないしな。
腹を括るしかない、か。
俺は一度深く深呼吸すると、口篭りながらもその言葉を口にする。
「わ……わ、分かった。お前達に協力するよ。……地球を……侵略しようじゃないか」
こうして俺と三人の「宇宙人」との地球侵略計画が動き始める。
気付けば俺は、昔応援していた悪役になってしまっていた。
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