本物の宇宙人
なんということだろう。
さっきまで高校生くらいの女の子の姿をしていた三人が、モンスターやエイリアンという言葉が似合うグロテスクな生物になってしまった。
いや、これが彼女たちの本来の姿なのだろうが。
ああ、しかし、なんというか、たまらない。
素晴らしい!
素晴らしい!
素晴らしい!!!
俺はこういった未知のものが大好きだ。
オカルトではなくファンタジー。サイエンスファンタジー。
目も耳もなく、大口を開けて人を食べるエイリアン。
鋼鉄のような肌で銃弾をはじくモンスター。
とてつもなく巨大で火を吐きながら暴れまわる怪獣。
幼少期からずっとそれらに憧れ続け、そんなものは実在しないと理解していた上でも彼らが現実に存在してくれたらいいのに、などと思い続けてきた。
そのせいで周りの人間にはドン引きされ続けてきたが、それでも嫌いになることはできなかった。
そうやって憧れ続けてきた未知の生物が、宇宙人が、今、目の前にいるなんて!!
最高だ。
と、そこまで喜びに浸ってからはたと我に返った。
そうだった。俺は生きるか死ぬかの選択を迫られているんだった。
「なるほど、どうやら言っていたことは本当らしいな……」
内心の興奮を抑え、あくまでも冷静に話す。
「納得頂けた様で何よりです」
眼鏡の子が答えた。
どうやら本当に宇宙人……と言うよりもエイリアンらしい三人は、また元の女の子の姿に戻る。
ああ、残念……。
「それで? その宇宙人さんは俺をどうするつもりでこんな所に?」
内心がっかりしながらも更なる対話を試みる。
彼女達が普通の人間の姿に戻ったことで興奮も収まり、冷静さを取り戻すことが出来た。
まあ、人間の姿に化けているエイリアンというのもそれはそれでそそるものがあるのだが。
「何故だと思います?」
「地球人を調べるために解剖……とかではないだろうな。それだと俺に姿を見せる理由が無い。調査より交渉や対話が目的か?」
それを聞いた黒髪の少女は眼鏡の奥の目を細める。
「意外と冷静なんですね、こんな状況なのに」
「そうか? 冷静を装うのでいっぱいいっぱいだけどな」
そう、先ほどからこの内心の興奮を抑えるのに精一杯だ。
「遅ればせながら自己紹介します。私はアカナ。横にいるクサビの補佐をしています」
「……ジキ」
眼鏡少女が名乗ると、左側にいた茶髪の少女が口を開いた。
ジキという名前なんだろうか。
「手荒なことをしてしまってすみません。パニックを起こして暴れられては困るものですから。ですがもうその心配はなさそうなので、拘束はお解きします」
そういってアカナが手をたたくと、俺を椅子に縛り付けていたバンドがしゅるしゅると椅子の中に収納されていく。
宇宙人のテクノロジーだろうか。
すごい……すごいぞ宇宙人!!
その瞬間、体が解放されたことで、抑制されていた欲望が解放された。
「うおおおおお!!!」
活発な少女ことクサビに早速飛びかかる。
「ぎゃああああああああああああ!?」
ああ、これが、これがエイリアンか。
子供の頃から憧れ続けた、現実で会えることをずっと昔に諦めていたエイリアンが、今や俺の手の中に!
「臭いを嗅ぐなああああああああああ!!!」
嗅覚が満足したら次は味覚も……と柔肌に舌を這わせようとしたところではたと気付く。
「いやああああああ!!」
「なあ、さっきの姿にまたなってくれないか。このままだと女子高生を襲ってる変態みたいだ。質感も普通の人間って感じだし、これじゃ満足出来ないよ」
「何言ってるんだ!!この変態!!!!」
「へんはいへはない、ひゅんしゅいにゃはんひゅうひんひゃ」
変態ではない!純粋な探究心だ!
「甘噛みするなー!」
宇宙人少女の指を咥えるが、普通の人間と変わらない。
すごいな、地球の生物とは思えないような姿のエイリアンが、ここまで人間そっくりに変身できるなんて。
これはこれで興奮する。
と、思うままに欲望を満たしていた俺の額に硬い物が押し付けられた。
「いきなり何ですかあなたは。それ以上暴れるなら頭を吹き飛ばして殺しますよ」
どうやら何らかの武器らしい。銃とかか?
未知のテクノロジーに触れてしまいたい気もするが、そのまま存在ごと消されかねない。命あっての物種だ。
「誰がいつ暴れた、ちょっとエイリアンを堪能しただけだろ」
「いいから離せ!」
俺がクサビを組み伏せたまま反論すると、下から抗議の声が飛んできた。
「だとしても嫌がっているので、せめて舐めたり嗅いだりだけはやめてあげてくれますか。そんなんでも一応上司なので」
「待ってアカナ! どこからツッコんだらいいの!?」
「仕方ない!そういうことならこれだけで我慢しよう」
「クサビ、我慢してください。この人の協力は必要でしょう」
「そうだけど、もうなんかこいつじゃなくていい気がするんだけど!?」
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