怪人とクリメラJr

帰ってきた大怪獣

 ドアの前には、人間より少し背が高いくらいのサイズの、怪獣が立っていた。


 いや待て、理解が追いつかんぞ。


「えーっと、どちら様」


 いや、怪獣相手にどちら様もクソもないか?

 というか、待て。

 サイズが全く違うせいで印象が違うが、この顔、体つき、肌の質感、もろもろまとめてこの「造形」は……。


「クリメラ?」

「です!」


 俺たちが作り、つい昨日倒された大怪獣だった。

 いや、大怪獣ではないな、大きくないし。

 せいぜい小怪獣だ。そんな言い方があるのか知らんが。

 しかも喋ったぞ。

「です!」とか言ったぞ、です!

 そんなキャラだったのかお前。

 怪獣と喋るの初めてだから戸惑うだろうが。

 人間相手でも初めてだと戸惑うのに。


 とりあえず落ち着こう。

 クールに対処するんだ。

 クールに。


「間に合ってます」

「ちょっ」


 そっとドアを閉めた。

 そっ閉じ。

 見なかったことに。

 たった一つの冷静な答え。


「ちょっと? 開けてくださいよー!」


 おお、ドア越しにもハッキリ聞き取れる声。

 ドアを叩きながら響き続ける声はまさに大怪獣。

 言うとる場合か。


「近所迷惑だ、とりあえず入れ」

「ありがとうございます!」


 招き入れてしまった。

 これは正しい判断だろうか。

 まあ、でも、多分、俺たちの撒いた種だからなぁ。

 あいつらにも一緒に何とかしてもらおう。



 ーーーーーーーーーー



「クリメラJrです」

「Jr? あいつ子供いたの!?」

「母親は誰ですか!?」


 ローテーブルを挟んで正座で向かい合った怪獣の名乗りに、さっきまで呆気に取られていた我が家のかしまし娘たちが飛びついた。


「あ、いえ、子供といっても分身というか、粉々になった残滓がなんとかより集まって再生したんです」

「ジュニアはジュニアでもセルジュニアだな!」

「いや、再生ならむしろパーフェクトセルでは?」

「マジュニアかも……」

「お前らいつの間にそんなに日本の文化に詳しくなったんだ」

 俺の本棚を勝手に漁るな。


 しかし、そうか。瞬殺されてしまったためにスペック紹介もままならなかったが、そういえば再生能力も備えさせていたのだ。

 断じて後付けではない。

 ではないが、すっかり忘れていた。


「丁度いい。怪人作戦はこいつにやらせよう」

「は?」

「新しく怪人を作る手間が省けた。サイズといいスペックといい、欲しい所にジャストミートだ」

「いやいや、さっきのは冗談じゃなかったんですか?」

「さっきまでは冗談だった」

「お前そういう言い回し好きだな」


 あいつらの批判はどうでもいい。

 重要なのは。


「やってくれるな、クリメラ!」

「もちろんです!」


 本人がやる気満々だということだ。


「怪人にしろ怪獣にしろ、侵略作戦の第一歩としてこういう破壊活動は重要なんだよ」


 頭の中に思い描いた侵略プランを実現するため、一つ一つの作戦を具体化していく。

 本当のの第一歩は躓いてしまったが、こんなところで挫けていられるか。


 侵略は一日にしてならず、だ。

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