ロボット……
「すまん、やられた」
単独行動をしていたクサビが、ボロボロになって帰ってきた。
自信を持って出ていった割にあっさりやられて戻って来たことを気にしているのか、何も考えずに俺の顔を見た途端口を開いただけなのか、クサビは靴も脱がずに扉のすぐ側で言葉を続ける。
グランダーは機能停止し、しばらく後に爆発。
街に大きな被害は出たものの、成功と言えるほどの戦果が上がったとは言い難い所で、今回の作戦は終わった。
「なんかシュラフの仲間みたいなやつでな。光ってるやつにやられたんだが、片足折って追い返してやった」
玄関で立ったままそう語るクサビの左腕は、肩から先が力なくダラリと垂れ下がっており、なんとも痛々しい。
「あー、それは……」
「心配は無用だぞ。この程度の怪我なら、地球人よりも圧倒的に早く治る」
「いや、お前でもそんな風に怪我することがあるのかと驚いてな」
「私の中の不動明王が火を吹くぞ悪人め」
そんなことが言いたかった訳ではないはずなのだが。
「なんだその例え。センス無いな、お前」
口をついて出るのはそんな言葉で。
「さあ、破壊作戦の戦果は上々だ。ここからは他の方法に切り替えていくぞ」
前向きを装いながら。
「怪獣はもう作らないのか?」
「趣味としては作っていきたいな」
「そういう話ではなく」
「まあクリメラJrがいるからな、適宜織り交ぜながらだろ」
指揮官の様な顔をして。
冗談を混じえながら、余裕があるような振りをして。
その実これ以上俺が何をしてもダメだと思っていたもんだから。
その夜、何の前触れもなく、そんな素振りを見せないようにしながら。
三人が寝静まった頃に、誰にも気付かれないよう家を飛び出した。
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行き先は特に決めていない。
泊めてくれるような友人のアテも無く、この機会にネカフェに初めてご来店してみる勇気もない。
何故家主が家出などしなければならないのか。
それは不甲斐ないからだ。
そもさん。
説破。
自己完結。
見慣れた道を真っ直ぐ進み、三つ目の信号を乗り越えると、もう知らない景色だった。
俺の行動範囲狭いなぁ。
引っ越してきてから買い物か侵略でしか外に出なかったからなぁ。
車が三台は並べそうな広い横断歩道が見えてきた。
前に住んでいたところよりは都会に近い所に居たらしい。
この時点で初めて知った。
初めて知ったって表現、不思議だよな。知るってのは初めての行為だし、二回目以降は思い出すだよな。
あ、でも毎回あれが覚えられないんだよな〜、みたいなのを改めて教えられるのは二回も三回も知るってことになるのか?
ダメだ、思考にノイズが混じる。
集中できない。
いや、集中して考えるべきことなんか、もう無いはずなんだが。
気が付いたら赤信号を渡っていて、クラクションを鳴らしてきた車を危うく躱す。
気を付けろ、バカヤロー。
そういえばここは、元カノと繰り出した街によく似ている。
また苦い記憶が蘇る。
振られた後、あいつらに出会って。
侵略という目的が出来て。
居場所が出来たつもりになっていたんだな。
成果が出ないなら俺は必要ない。
そんな馬鹿みたいな言葉に、頭の中を支配される。
アカナのことを言えないな。
街中の公園には人が集まり、そこかしこから笑い声が聞こえる。
ビアガーデンのような物が隣接しているらしく、テーブルを囲む人や、芝にシートを敷いて飲み食いしている人々もいる。
それなりに遅い時間のはずなんだがな。
怪獣が、怪人が、ロボットが街を壊したというのに。
多少距離があるとはいえ、日常は確かにそこに存在している。
俺が何をしたところで、この日常を壊すことなど出来ないのではないか。
その人混みの中で、俺一人だけが侵略者だった。
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