我々は侵略者だ!

甘木 銭

プロローグ〜始動!侵略者〜

侵略作戦第一号・大怪獣クリメラ

「ふははははは!!! ついに、ついに完成したぞ!!!」


 ビルの屋上で都会の風をめいっぱい感じながら、悪の科学者よろしく高々と笑い声を上げる。


「何もしてないのになんでそんな偉そうなの!?」

「うるさい!計画を立てたのは俺だ!」


 二月十三日、正午。快晴。

 真冬の澄んだ空、まさしく大怪獣日和!!

 都会の空に巨大なワープホールがぽっかりと口を開く。

 そしてそこから、俺の渾身の力作、大怪獣クリメラが、今、日本に降り立った!!


 立ち並ぶビル群の中で圧倒的な存在感を放つ大きな体、肉厚な瞼から覗く鋭い眼光、マットな黒が効いた頑強そうなゴツゴツの表皮、どんなものでも引き裂きそうな爪、背中から尾にかけて並ぶヒレ、木々をなぎ倒さんばかりに太く力強い尻尾、車など簡単に踏み潰してしまえるような重量感に溢れる脚。

 うーん、まさしく俺の注文通り、惚れ惚れとする造形だ。


 興奮してきた。


 ビルの上からその光景を眺めていると、下界から民衆の泣き喚く声が聞こえてくる………気がする。

 地上四十メートルともなるとほとんど下からの声は届かないが、そこは気分で補完していこう。

 ズシーン、と大きな音を立ててアスファルトの上に降り立ったクリメラは、俺達がいるビルから三十メートルほど離れたマンションに、その大きな手を力一杯叩き付けた!!

 ゴーン!!と凄まじい音がしてマンションがガラガラと……崩れなかった。

「……あれ?」

 あ、なんか痛そうにしてる。手が痛いのか!?クリメラ!?

「なんで!?なんでだ!?」

暖人はるとさんだってコンクリートなんか殴ったら痛いでしょう。クリメラも同じことですよ」

「ええ!?でもクリメラは体長五十メートル体重二万トンの大怪獣だぞ!?」

「大怪獣だろうが生物には違いないし。あんまり無理をやらせようとしない方がいいと思うわ」

「そんな!?」

「それに……こんな所だとあの子食べるものも無い……可哀想……」


 やめろ、手を合わせるな!!

 縁起でもない!!


 と、慌てふためいていたら街の方から強烈な光が飛んできた。

 光の玉がクリメラに体当たりし、もう一度強烈に光る。

 するとそこから、ズシンとヒーロー然とした格好をした巨人が地上に降り立った。

 ……え?

 嘘だろ、そんなの現実にいるのか!?

 そりゃ確かに宇宙人も怪獣もいるけどね!?

 長年地球に住んでるけど今まで一回も見たことないよ!?

 突如現れた巨人は腕を組むと、クリメラに向けて光線を放った。

 無情にも、爆発四散させられるクリメラ。

 地球への滞在時間僅か五分!

 その様子を見届けて颯爽と飛び去って行く巨人。

 後に残されたのはクリメラだった物の破片と、大いなる絶望感。


「泣いてるの……?」


 泣いてない!断じて泣いてはいないが……クリメラ、今だけはお前の死を嘆かせてくれ。


「初任務、失敗ですね」


 いいや、あの巨人の存在を知れただけ成功だ。

 そう思わなければやりきれない。


「で、どうする?」


 どうするだと? そんなの決まっている。

「計画を練り直すぞ! 次は新兵器開発だ!!」

 涙目で叫ぶ俺を見て、笑顔を浮かべる三人の少女達。


「クリメラーーーーー!!!」


 俺の虚しい叫びは都会の冷たい風によって流されていく。

 これが、俺たちの長い、長い「侵略計画 」の始まりだった……。


「次こそは絶対に、地球を侵略してやる!!!」


 この言葉、後々の伏線になってるからよく覚えておいてくれよ?

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