クレープ #エルフの王女にして美貌の閨秀作家の話を読みたい
夢美瑠瑠
第1話 エルフのプリンセス
ファンタージェンの湖水地方にあるシュヴァルツヴァルト、(黒い森)には
美と知性の妖精・<エルフ>の一族が何万年も前から暮らしていた。
<クレープ>は、そのエルフの国の王様であり、ダークエルフで、偉大な魔法使いの<ペール・ギュント>の一人娘だった。
ファンタージェンと現実の世界というのは複雑に入り組んだ位相に存在しあっていて、関係が理解しにくいのですが、それでも相互に何となく影響しあっていて、
北方の妖精はやはり北欧の民族を思わす白皙で端整な容姿で、南方には蛮族めいたドワーフやゴブリンがいて、東方にはヒンズー神話のシバ神、ガネーシャ、ハヌマーンなどが跋扈していた。
西方にはそうしてやはり、モンゴリアンの諸々の神話に登場する悪魔、妖精、魑魅魍魎が跳梁していた。
クレープは、エルフ族の例にたがわず美少女で、まだ幼いのですが、それでも二百と十四歳でした。
エルフは長生きで、先代の国王、今の大長老で、クレープの曽祖父にあたるエルフは、一万歳は超えている、しかしもう正確な年齢は不明という長寿でした。
「ねえ、お母さん、曽(ひい)お祖父さんの名前って何だっけ?発音が難しくて・・・」
「まだ<幻声言語>っていうのが一般的な時代だったからね。言葉は全部呪文だったのよ。テレパシーで会話していて…名前なんていうのは一種の「忌み言葉」で、知られると呪いを掛けられたりする恐れがあったの。
私も学校の試験に出るから無理やり覚えたのよ。
…
まず、(口をすぼめる)「キュウオ…」、(口を横に開いて、舌を丸めて)「ウィエイク…」
(息を強く吐く)「フェリン」、ここまでが全体の名前のやっと百分の一くらいなのよ。あと延々そういうのが続いて…」
「最後だけ覚えてるわ。舌を歯に滑らせて…」
(二人、声を合わせて)「ミッシェルフ!」
「アハハハハ!あー可笑しい」
「この会話、もう定番のジョークみたいになってるわね…」
クレープはホワイトエルフですが、お母さんもダークエルフで、生まれたときは「アルピノ?」と、皆疑いましたが、どうしてどうして、次の女王候補と言われるほど、クレープには強い魔力が備わっているのでした…
睡眠剤と、眠りの質を高めるための、西洋オトギリソウというハーヴを就寝前に煎じて飲んだので、クレープは白夜の長い夜が明けるまで、少女らしい、リリカルで綺想に富んだ夢をふんだんに見つつ熟睡し、精神的な栄養と、深い休息による肉体の英気をMAXまで養った。静謐で玲瓏な夜明けのあけぼのの光がより玲瓏で、ニンフェットらしい愛らしい美のニュアンスを帯びたクレープのクリスタルのような透明感のある横顔を照らす。
開け放った窓からは湖から忍び寄る靄の触手が伸びてきて、室内に神秘的な雰囲気を醸成していた。
ラメの入ったシルクのカーテンがさらさらと風に戦(そよ)いで、金雲母のようにきらきらと朝陽を反射して耀(かがや)いていた。
愛馬のユニコーン、リュックが、鋭く嘶(いなな)いた。
眼が碧く、純白の、ファンタージェンにしか存在しない天馬の一族。
鷹のような美しい巨大な翼を持っている。
素晴らしく軽快な健脚で疾走し、自在に天空をも移動する。
いつも影のように寄り添う、クレープの親友だった。
それらはさながら、日本画で言うと東山魁夷の描いた東欧のような世界だった・・・
<続>
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