第13話 優駿



「眠れない …」あれこれ思い悩み、クレープはまんじりともせずに水時計の音をしばらく聴いていました。

輾転とした挙句、一旦入眠を断念せざるを得なくなりました。


さらさら絹ずれの音をさせつつ、柔らかいベッドからクレープは、そっと抜け出して、厩舎に向かいました。


宮廷の外にある、パティオの隅の一角。

キラキラ輝く黄金の建物。


Mmmmmm…中から高貴なニュアンスの寝息が聞こえてきます。


親友で、一番の理解者である、ユニコーンのリュックがそっと横たわっている。…夜目にも、その白い馬体は精悍な気が漲っていて、発光しているようにすら見えました。


@ @ @


 「ハイッツ!ヨウッツ!」

 リュックの雄大な背中に跨って、エルフのプリンセスが高らかに呼ばわりました。

 その声とピッタリ呼吸を合わせて、聡明で俊敏な、王国随一の稀代の駿馬は、美しい巨翼を羽搏かせました。


 空気を孕み、一陣の旋風を舞い起して、巨翼がトルネードの渦中に沈みました。クレープを乗せたユニコーンの優雅な姿がぼやけました。


 次の瞬間、まるで、一筋の光線のように目にもとまらぬスピードで二人は舞い上がりました。流体力学の神の化身のような飛行体には、空気抵抗の影すらなく、全く無音でした。天翔けるその、さながら白皙のケンタウロスは、人馬一体の精妙なダイナミクスの元、流星のように夜空に夢幻のイルージョンの軌跡を描きました。

 

 「ああ、気持ちがすっとするなア…この前の星まつりの時にはライトアップして、リュックもスパンコールをつけて、デモンストレーション飛行したら、まるで花火かプラネタリウムみたいに綺麗だって言われたよね。リュックは4歳の牝馬だからまあ女ざかり…あたしもそうだけど、あ、私はまあアドレサンスの乙女ていうほうが正確よね…」


 さっきまでの憂わしさがウソのようにクレープは清々した気分になって、ふううっつと溜息を吐きました。



<続く>

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