第5話 Magic
クレープは、趣味の錬金術や、薬草の調合に使う様々な素材を集めに、定期的に山野に出かけるのが習慣でした。
もちろん、愛馬のリュックを駆って、王国のそこかしこに点在する、貴重な天然素材の産出地を、しらみつぶしに探索するのです。
「リュックの病気の万能治療薬を作るのに必要なのは死の谷の硫黄石と木霊の森の霊芝、それとルルドの泉の奇跡の湧き水。「ファイアークラウド」の魔法を聖化する秘蹟に必要なのは吸血蝙蝠の生き血とマンドレイクの根っこと純度の高いサファイア晶石…ファンタージェンの大自然のフィールドには、こういうこまごましたアイテムが、種類も量も、ほぼ無数、無尽蔵にある感じね。未だ未解析の未知の効能を持つ秘薬とかがたくさんあるかも…錬金術も魔法も、なんて肥沃で自由度の高い、夢や人跡未踏のsometing elseにあふれた世界なんだろうってしみじみ思う。」
錬金術師や魔術師は、大自然の中に夢を紡ぐアーティスト…クレープはよくそんな風に自らの身の上を寿ぐのでした。知れば知るほどに万物を統べる大自然の法則、その複雑精妙な方程式というか、成り立ちの奥深さ、縁起や理法の絶妙なバランスとメカニズムの汲めども尽きせぬ味わい深さ、は目を瞠るほどに素晴らしくて、よくできていて、クレープの心を捉えました。
日々蓄積されていく、錬金術や魔法に纏わる知識、ファンタージェンの森羅万象と、それを自在に操るためのノウハウ、「一体魔法とは何か?」、「究極の魔法とはどういうものか?」むしろ哲学的ですらあるそうした問いかけを中心としたクレープの魔法学の大系の追求と実践、完成への道程…それを通じてクレープ自身もどんどんと洗練されて、成長を遂げて、魂のステージの階梯をどんどん上っていく感じでした。
「ウキイイイイイイイ!!」
その時、不吉でいやらしい、邪悪そのものの叫び声が響きました。
振り向く暇もあらばこそ、あたり一帯に、ムッとするような悪臭が立ちこめました。
青天の霹靂でしたが、妖精や怪物、魑魅魍魎の跋扈する”フェアリーワールド”での野生のフィールドでは、敵との遭遇は日常茶飯で、それがファンタジーゲームの基本でもあるおなじみの「戦闘」フォーマットの発祥なのでした。
「!!! はぐれオークだ!隣の国を追い出されて、この辺までのさばってきたんだわ!…ああら、うようよいる!臭いし穢いし…生かしておくと危ないし、衛生上も悪影響がありすぎる!きれいさっぱり殲滅する必要があるわ!」
真っ黒で、個体の識別が不能の、ケダモノじみた気配を発散している、妖怪変化の塊が、赤く血走った無数の眼だけを光らせつつ、むくむくと蠢きながら、クレープに迫ってきました!
クレープはすっくと立ちはだかって、背筋を伸ばして、オークの群れに静かに対峙しました。
銀と象牙製の玲瓏な杖、大賢者パンゲアから受け継いだ、一族の一子相伝の最高の魔術の使い手たる証の「大賢者のロッド」を振りかざし、正眼に構えて、クレープは厳かに呪文を唱え始めました。
「!#$%&‘@…&=#$@@*…?%&$#!…」
通低音のように響く、美しい弦楽器の調べのような朗誦…
クレープの美々しい澄んだ声が辺り一面に静かな緊張を呼び起こし、ピーンと張り詰めた空気が立ちこめる。
見よ!
スポットライトでも浴びたかの如くに、クレープの全身が青白い耀きを帯びて、その耀きがどんどん増していき、眩いくらいの純正の白色になった次の瞬間…
天地開闢の瞬間をコンパクトに再現したかのような、原初的な畏怖を喚起する「聖なる轟き」が炸裂した!!!
「セイクリッドスパーク! 喰らえ! 地獄に堕ちろ! 醜いケダモノ!」
はっきりと、「神の正義の怒り」そのものが内在した、超絶的に高エネルギーな、神々しい至純の白熱光の塊が、忌まわい”醜いケダモノ”の塊を襲いました。
「🔥🔥🔥!!!!★★★★!!!!BAAAAAAAAN!!!!!」
「キヨエエエエエエエエエエエエ!!!」
コンパクトな”ハルマゲドン”が、現出したかのような凄絶な光景でした。
錯綜する熱の光の嵐が、”饗宴”のごとくに展開しました。
黒い魔物たちの断末魔の阿鼻叫喚が谺して、すべての穢れた血と肉は極限まで焼き尽くされ、灰燼に帰して、瞬時のうちにすっかり祓い清められ…ものの2,3秒もしないうちにその光彩陸離たる”マジックショー”はすっかり完結しました。
ザコオークの始末を終えた”大いなる魔術の申し子”、クレープは、息一つ乱さずに、相変わらず何事もなかったかのように静かに佇立していました。
すっかり静かになった、夜の
<続く>
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