第4話  クレープのヒロイック・ファンタジー

 クレープは銀の鵞ペンを操って、羊皮紙に、怜悧で玲瓏で明晰なストーリーを、エルフ族きっての至純の高貴な家系の粋、王国の開祖の、伝説的な”偉大な大賢者・パンゲア”の末裔の一族中の珠玉,至宝といわれる彼女にしか綴り得ない、神秘的で不可思議で、唯一無二、空前絶後前代未聞、未曾有、想像力の極致の、ヒロイック・ファンタジーをコリコリと書き続けていた。

 

 「ああん、肩こっちゃうウ。ま、いいか。がんばろっと!」


『…ユニコーンは、純白の逞しい体躯に膂力を漲らせて、高く空中へと翔け上がった!地球の重力や空気抵抗の存在を全く感じさせない、魔法のような身軽さだった。夕陽とオーヴァーラップしている巨大な天馬の美しい角が、滑空や上昇につれて、プリズムのように様々な色彩で光った。』


 「ううん…面白くなくもないけど? リュックの飛んでるところを参考にしたのよね。だけど物語を綴るって、そんな経験が豊富でも才能とかに自信がある訳でも無いけど?なんていうか…なんだか平凡なのよな~」

クレープの書くファンタジー小説は、まずイメージや表現の美しさや、感覚の鋭敏なところが王国の若い世代に支持されて、そこそこの読者とほどほどの評判と文学的名声の萌芽?を獲得していました。

が、王国の王位第一後継者と下馬評で目されていて、父王から継承した天性の魔力の至高的かつ絶世的能力、それに見合うほどの文藝としてのユニークさが自分のファンタジーにあるのか?、超エリートのエルフのプリンセスとしての超絶的な知性を物語の”オリジナルな個性”として発揮しきれているか?というとクレープ自身もイマイチ物足りない感じだったのです。

「だからこういうのはリアリズム?というか現実の延長の域を脱していなくて…」

知性が高いエルフの王国ゆえ、文藝的なサロンや色々とプリミティブな様式の文藝評論、評論家に類するソフィストもたくさんいました。

文壇、にあたる色々なファンタジー小説とかの愛好家の集いも隆盛していました。

そういう集いのアイドル、花形。いわばファンタージエンのマリーアントワネット?のような存在のクレープは、イマジネーションというものの本質について、だんだんにマニアックでかなりに個性的な、寧ろ唯一無二なくらいにheavenlyな幻像、あやかな夢想を抱くようになっていったのです。

  魔法、magic の本質のエピソードは先述しましたが、魔法というものの「道」?的な学術的な追求に似通った、クレープの深い思索癖が、創作の面でも徐々に発揮され始めてきたのです…


<続く>

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