第3話 王国一の才女にして唯一の『閨秀』

 

 抜けるような雪白の肌、たおやかな四肢。愛らしい声。愁いを帯びた瑠璃色の瞳。中世の北欧の端麗な王女そのままの、いやさらにこの世ならぬ、昇華透徹した美と叡智の結晶、化身のような、そういう神秘の森の妖精。生まれながらに超絶的な魔力を持つ、ホワイトエルフのプリンセス。

 

 それがクレープでした。

 

 が、クレープがヒロインであるこの物語の、ちょっと違うところは、この王女様自身が「物語作家」であるところなのです。いわゆる「閨秀作家」。

 もちろん、尖った耳や切れ長の瞳が特徴的なエルフの一族のご多分に漏れず、クレープも鋭敏な感性と知性に恵まれていて、王国を統べる一族にふさわしい卓越した魔力の持ち主でした。

 剣と魔法の世界では当然のようにマジシャンがいて、呪文を唱えて天変地異のミニチュアのような超常現象を巻き起こしますが、これはつまり”精神”というものの神秘的な力の外在化なのです。書いて字のごとく、”精神”とはつまり人間の内なる”神のごとき奇跡的な何物か”、その精髄です。知性というものが極めて発達して行った挙句に、不可思議な超絶的なパワーを潜在的に有する、「サピエント」、「叡智」の源となる特殊なゲシュタルトが生き物の、特に万物の霊長となりうる種族の中に生まれた。それが”精神”というある玄妙な奇跡だ。その”精神”を研ぎ澄ませて、思考の象徴化である呪文と、この世のオカルティックな現象との紐帯を見つける…そういう原理の体系が”魔法”なのだ…それはつまり神と悪魔の領域のアウフヘーベン、止揚です。


 エルフは亜人間…つまり人間の知性や美質の体現的存在の妖精の種族だから、当然魔法は彼らにとって大の得意の技であったのです。そうして、魔法はつまり、「言葉」の呪術化で、魔力という点では天才的に素晴らしい血を引いていて、当然、言葉を操るにも長けているクレープが、天才的な物語作家としてのギフトの持ち主であっても、まあ全く不自然ではなかったのです…


<続く>



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