第11話 クレープの新境地

クレープは、剣と魔法のファンタジーワールドで生まれ育って、他の世界には当然無知で、これまでに書いてきた物語は、その同じファンタジー世界の似姿が舞台で、ストーリーも日常の延長で、クレープはそういうノウハウしか持っていませんでした。


が、だんだんに、持ち前の、極めて怜悧で明晰な知性ゆえに、そういうドラマツルギーに飽き足らなくなってきたのです。


たくさんの物語が、このエルフの王国の中だけにでも溢れていて、作家を名乗るエルフともなれば自分なりのユニークな方法論を完成していて、やはり個々の文学作品それぞれに独自の小宇宙を孕んでおり、百人百様というか、世界観や文体も極めて多彩な、百花繚乱な様相を、カサンドラ公国「文壇」も呈していたのです。


クレープは、ベストセラー作家の筆頭の座を、ずっと守り続けていて、とりわけ情景描写がリリカルで美しく、魔法や戦闘シーンがまるで映画を観ているようにビビッドで、迫真的、そういう特長で人気を博していました。


が、先にも書きましたが、だんだんにそれだけでは飽き足らなくなり、小説を書くこととか、そもそも物語の存在意義は?そうしたかなり本質的な問題に直面し、懊悩し始めたのです。


かなり、一度思い切った、実験的な作品に挑戦してみよう!クレープはそう決心しました。

とにかく、思い悩んでいても始まらない。魔法大学でも、理論の勉強はどちらかというとクレープは苦手で、実践して自家薬籠中のものとする、アタシって、そういう行動派タイプだったっけ…


で、とにかく、「全く新しい、斬新で奇想天外な、そういう物語の構想をASAPにまとめて書き始めよう!」

鵞ペンにたっぷりと青紫色のインクを含ませて、羊皮紙のマス目に、まず、「第一章 人工生命の誕生の経緯」と、書いてみました…


「続く」



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