第19話 氷の塔



  ファンタージェンには、お伽の国らしく、いろいろと未解明の謎がそこかしこにあって、それらが伏線となっている、多元的で込み入ったストーリーの中でだんだんに真相が明らかになる…これは物語の文法、というドラマツルギーではおなじみの基本的な骨法、そうしてストーリー全体を統べる中心的なミステリアスなトポス、クレープたちの運命を左右する究極の謎…それが三つの国の中央に位置する「氷の塔」なのでした。


先述のように、その存在はファンタージェンの濫觴の時代から知れ渡っていて、多くの冒険者がその中に何があるのかを解明しようとして侵入を試みましたが、峻厳な偉容で、熄むことのない雪嵐に包まれている、ペールブルーの城砦?は、外敵を拒み、頑なに門戸を閉ざして、なおかつピラミッドがそうだったように、近寄ろうとしたものは軒並み呪われて早晩に命を落としたのでした…


 語り伝えられているのは、「外壁は恐ろしく硬い、ダイヤモンド並みの硬度の半透明の素材で出来ていて」、「金城鉄壁で、どれくらいの高さがあるのか把捉不能で」、「くまなく探索しても入口の痕跡すら見当たらない」、「不気味な、亡霊の泣き声のような正体不明の金属音がしょっちゅう響いている」、「夜には、うすぼんやりした蛍光色で塔全体がライトアップされたように点滅しながら光り輝く…これも、なぜ、なんのためかは全く理解の外の現象である」…


 つまり、幽霊船とかと同様に、存在自体は既定の常識だが、実体については全く確かな情報すらなくて、杳としていて、漠然としたアウトラインすらわかっていない。


 ここ1000年ほどは、もはや近寄ろうとする馬鹿者すら途絶えていて、だから、遺跡や廃墟、そういう無意味なモニュメントとして壮麗な「氷の塔」は打ち棄てられていたのだ。


 が、エルフの国の、”カサンドラ公国”は、一種の技術立国で、テクノロジカルなイノベーションに相当する「技芸の進歩」とか「パラダイムの刷新」、そういう”魔法”という思想体系に基づく、科学やエネルギー体系のアップデートを絶えず続けていて、だんだんにこの、「砂上楼閣スパニッシュキャッスル」の、実態についてもリモートデヴァイスでの研究が進みつつあったのだ。


 そうして、だんだんにその驚くべき素顔が明らかになりつつあった…


<続く>

 

 

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