第9話 クレープの苦悩と葛藤
華麗で、馥郁たる香りと雰囲気の坩堝。カトレア、霞草、薔薇、ネモフィラ。…夢のように美しい花々を浮かべたバスタブに浸かりながら、クレープはぼんやりとあれこれと物思いに耽っていました。
「つまり、物語を綴るというのは…?私にとって、今はただの楽しみというか?やむにやまれない欲求や衝動に突き動かさされているというより何だか手探りで模索しているだけだけど…皆が読んでくれたり褒めてくれたりするからひたすら何だかありうべき理想のストーリーがある、それを追い求めてシミュレーションしているだけみたいな作業だな。でもそれを超えて、何かそれ以上の何かに、書く、ということはなりうる気もする。陳腐でありふれた日常の延長の、…え?ここってファンタジーワールドなのに?そこいらへんでファンタジーとかがだいたいなんで、なんのために存在して成立しているかも今の私には何だか曖昧だし…」
乙女なのに、だからこそ、クレープなりの様々な日常的な苦悩や葛藤、思春期のヒューマノイドに共通の自己形成の、だから自我や人格、大人になるという、唯一無二の、クリティカルな課題に日々やはり取り組んでいました。
物語を綴り、ひとつの世界を、別の壺中天を定立する、読む人を楽しませるため?自分の考え方や世界観の表現?今まではやみくもに、見よう見まねで書いてきたけど、もっとこういう文学とかの存在意義や、自分なりのポリシーを明確に持つ時期かもしれない?。…
それにはもっといろんな文学論やそういうものに実際に触れてみないと。
私はあまりにも勉強不足だし…
クレープは、花の香りに包まれた全身に、精妙な神秘のオイルを塗り込めて、バスローブ姿で寝室に向かいました。
窓から見える満天の星空には、蒼い、鎌のような月が冴え冴えと光っていました。
『 続く』
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