平凡な高校生だったけど異世界でチート能力を得た俺は美少女鍛治師と共に最強を目指す~剣至上主義の世界で俺だけがどんな剣でも扱える~

ベッド=マン

【一章】剣集いて逢魔に刻む

第1話 俺はナンバーワンになりたかった


 あんなこといいな、できたらいいな。 あんなゆめ、こんなゆめ、いっぱいあるけど。

 

 ……なんて、言っていられたのはせいぜい小学生までか?

 

 試験、部活、もしくは趣味。 現代社会でただ生きているだけでも皆どこかしらで自分の能力に限界を感じて、少しづつ将来の選択肢が狭まっていく。

 皆、自分の能力ではサッカー選手にも億万長者にもハリウッドスターにもなれないのだと気づいてしまう。

 

 そうして少し現実的な選択を取ろうとする。 絵を描くのが得意だからイラストレーターだとか、パソコンに強いからプログラマーだとか、クラスで人気者だったからお笑い芸人だとか、 自分の得意な分野で一番を目指そうとする。

 

 けれど、そこでも挫折が待っている。自分が得意な分野だからといって上には上がいるという現実を痛感してそこで一番になることも諦める。

 

 そうして、ただ今を生きていること、なんでもない日常の幸せに満足しようと努めるようになる。

 

 それが大人になることなのだと人は言う。

 

 社会を知って、現実を知って、今自分が出来ることを、与えられた仕事を全力ですることが大事なのだと説く。

 

 

 俺、谷山十斗は現在高校二年生。 きっと自分も例に違わず凡人なのだと薄々気がついてはいても、まだそれを認めたくはなかったから色々な可能性を追い求めている。

 

 俺はこのまま何者にもなれずに人生を終えるつもりはない。

 

 普通の会社に就職して、普通に結婚して、子供作って家買って家庭を築いて歳を取ってやがて死ぬ。 そんなのまっぴらごめんだ。

 

 ナンバーワンよりオンリーワンだとかマジでくだらねぇ。

 

 この令和の時代のどこにオンリーの余地があるんだよ。

 

 競争社会だよ。 仕事でも、プライベートでも、俺達は常に競うことを強いられている。 オンリーワンだとかほざいて逃げる場所なんてどこにもない。

 

 勝ち負けが全てじゃないなんて言って悟った気になっているのは、既に敗けてドロップアウトした奴が自己肯定したくて声を大きくしているだけだ。

 

 俺はそんな負け犬の遠吠えに耳を貸す気はない。

 

 俺は何か一つ誇れるモノが欲しい。 もちろんそれはオンリーワンって意味じゃない。

 これだけは誰にも負けないっていうナンバーワンが欲しいんだ。

 

 だから今日に至るまで自分のあらゆる可能性を試してきた。 メジャーなスポーツは一通りやってみたし、中三のときは受験そっちのけで音楽方面を試したりしていた。

 

 ギター、ピアノ、ドラム、ハーモニカなんてやったこともあったな。

 

 けれどどれも才能があるようには思えなかった。 この先続けてナンバーワンになれるような将来性は見込めなかった。

 

 だが俺には自分ではまだ気づいていないだけで何かしらの才能があるはずだ。 それを見つけるまで俺は絶対に諦めないつもりだ。

 

 ……つもりではあるが昨日親と喧嘩した。 いつまで遊び呆けているつもりだ。 いい加減自分の将来に向き合えとお灸を据えられた。

 

 心外だ。 俺はクラスメイトの誰よりも自分の将来を真剣に考え行動に移しているというのに、他人の目から見るとそれは遊んでいるように見えたのだという。

 

 きっと俺の両親は安定した職に就いて欲しいのだと思う。 真面目に勉強して堅実な人生を歩んで欲しいのだと思う。

 

 けど、それは全部の可能性を試してみてからでも遅くないだろ?

 あらゆる可能性を試してそれでもダメだったらそうするよ。 と、反論したら思いっきりビンタされた。

 

 どうやら先日の学期末テストで平均50点を取ってしまったのが良くなかったようだ。

 

 手遅れになって困るのはおまえなんだぞ。 って言われても、それこそ大人になってから自分が何者にもなれていないことに絶望する方がリスクあると思うんだけどなぁ。

 

 

 ……あ、ところで俺今から死ぬっぽい。

 

 下校中におばちゃんのカバン奪って逃げるひったくり犯追っかけてたんだけど、途中うっかり赤信号なのに道路に飛び出してしまって、目の前に大型トラックが迫ってきているという具合だ。

 

 あーあ、俺が幼稚園児のときの将来の夢正義のヒーローだったんだけどなぁ。

 悪を挫き、困ってる人を助けられるような男になりたいって思ってたんだけどなあ。

 

 俺は自分の可能性を追い求めていたけど、どうやら少なくとも正義のヒーローには向いていないことが今はっきりと判明してしまった。

 

 だって、ひったくり犯追っかけてトラックに轢かれるヒーローなんていないもんな。

 

 言葉では言い表せられない鈍重な衝撃。 不思議と痛みはなく。薄れ行く意識の中、俺は道路のど真ん中でその日の空を見上げていた。

 

 十二月にもなると流石に日が暮れるのも早い。 俺が最後に見た空の色は、燃えるような朱だった。

 

 くそ、俺はこんなところで死ぬのかよ……

 

 まだ何も成せていない。 何者にもなれていないのに……

 

 嫌だ嫌だ嫌だ……

 

 俺は死にたくない。 死にたくないよ……

 

 ああ、ちくちょう。

 

 俺はこれから死ぬっていうのに、馬鹿に綺麗な夕焼けだなぁ……

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