第3話 俺は少女と出会った


 あー、見た見た。

 

 これ友達に貸してもらって読んだ漫画でよく見た展開だよコレ。

 

 まあ、厳密には女の子が水浴び中で男がそれを目撃してしまうみたいなのがテンプレだったような気がしますけども。 というか、今わたくしかなりピンチなような気がするのですけども。

 

 ちなみにパンツは履いていない。

 

 このジャングルのど真ん中で、俺のジャングルもレッツパーリーナウだ。

 

 「キャーーー!?!?」

 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!?!?!?」

 

 ふう、間一髪だ。

 

 相手の悲鳴に合わせてそれよりも大きい悲鳴を被せ相殺する。

 こうすることで強制的に相手を冷静な状態に引き込むことが出来る。

 

 「……?」

 

 「やあ、こんにちは!」

 

 「こ、こんにちは……?」

 

 よし、いいぞ。 完全にこちらのペースだ。しかしこの子もアホだな。知らない人に口をきいちゃいけないって親に教えてもらってねえのか。

 

 「おっ、いい返事だねえ! ちょっと服着るから待っててくれないかな?」

 

 「えっ? あ、はい……」

 

 一先ず思うように事を進めて、脱不審者したところで話を再開させる。

 

 「お待たせ! さて、自己紹介がまだだったね、俺は谷山十斗! 君の名前は?」

 

 「メ、メルです……」

 

 「メルちゃんか! よろしく!」

 

 うん、どうやら今のところ不自由なく会話が成立している。 最初は日本語が通じるのか不安だったが要らぬ心配だったようだ。

 

 「あ、あの……」

 

 「ん?」

 

 「あなたはいったい、ここで何をしていたんです、か……?」

 

 困ったな。すんごい返答に困る質問だよなコレ。遭難してましたと言いたいけれど、もしここが以外にも人里に近いような場所だったら何言ってんだコイツ状態だ。

 

 ひとまずここは……


 「川遊びさ! ここの水は冷たくて気持ちがいいからね!」

 

 どうなんだ。いったいこの返しはどうだったんだい。 俺は誤魔化すことが出来たのかい!?

 

 「なるほど! そうだったんですね!」

 

 よっしゃあああああ!!!! 騙せたぁぁぁぁぁぁ!!!!

  

 間違いない! この子は絶対アホの子だ!

 

 他人が言うことを何でも素直に聞いてしまうアホの子に違いない!

 

 そうとなれば利用しない手はないな! この子から色んな情報を得よう!

 

 下手なことを聞いて怪しまれるとマズイから、先ずは当たり障りなく手堅いところから……

 

 「そういう君はこんなジャングルにいったい何を? お父さんやお母さんは?」

 

 「私一人です! 今日は砥石になりそうな石を探しに来ました!」

 

 「砥石? 包丁とかを研ぐあの砥石?」

 

 「そです! この川の上流では質のいい砥石が採れるんですよ!」

 

 「なるほど~、 ということは君は包丁屋さんの家の子だったりするのかな?」

 

 「ちょっと違います! 私は鍛治師! 剣を作るのが私の仕事なんです!」

 

 「け、剣?」

 

 おいおいマジかよ。今この子剣って言ったか?

 メルなんて変な名前といい。そりゃもう完全にファンタジー決め込んでしまってんじゃねえか。

 

 よく見たら背中に何本か背負ってるし、彼女が言っていることはきっと全て本当なのだろう。

 

 どうする? もうここが異世界なのは確定として、どう行動するのが正しい?

 

 とりあえず一人になるのは危険だということは確かだ。もう少しだけこの少女と行動させてもらってついでに話を聞く必要がありそうだ。

 

 「それじゃ、私はもう行きますね! おきをつけて!」

 

 「ちょっとまって!」

 

 「へ?」

 

 「砥石、ちょっと興味があるな。 ついていってもいいかな?」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 「へえ~、それじゃあ亡くなったお爺ちゃんの工房を引き継いだんだ」

 

 「はい! でも今は私一人で人手が足りなくて…… 砥石も自分で採りにいかないといけないんです」

 

 「街とかには売ってないの?」

 

 「高いですから。 それに品質もあんまりよくなくって」

 

 「すごいね。砥石一つでもそんなにこだわるなんて」

 

 「粗末な剣は作るなって爺ちゃんに言われましたから! それに、私はいつか最強の剣を打ちたいんです! だから妥協はしません!」

 

 「最強の剣?」

 

 「はい! 十二聖剣にも負けないような、最強で最高の剣を作るのが私の夢なんです!」

 

 はい出た。聞き慣れない新ワード十二聖剣。察するに十二本の聖剣ってことなんだろうけど、いったいそれはどういう剣なのか、そもそもその情報はこの世界にとっての常識なのか、まったくもってわからないし、わからないから下手に聞けない。

 

 と、そんなことを考えていたらどういうわけかメルはいつの間にか黙りこくってしまっていて、表情を暗く落としていた。

 

 しまった。考えることに集中しすぎて返事が疎かになっていたか。もしかして気分を悪くさせてしまったか?

 

 気づいてすぐに謝ろうとしたそのとき、メルは突然こんなことを俺に聞いてきた。

 

 「あの…… やっぱり変ですか……? 今どき最強の剣を作るのが夢なんて……」

 

 「いったいどうしたんだ? いいじゃないか、立派な志だと思うけど?」

 

 「でも、ただでさえ女子の鍛治師なんて変なのに、その上最強の剣なんて……」

 

 「……あー、もしかして他の人がバカにしてきたりするのかな?」

 

 「はい……」

 

 「気にするなよ、そんな連中。 他人の夢をバカにする奴らなんてどうせ大した奴らじゃないんだから」

 

 「……」

 

 俺は励ましの言葉を掛けるが、メルの表情は未だ暗い。それを見て、何を思ったか俺はいつの間にか自分の過去話を語っていた。

 

 「俺も昔似たようなことあったな」

 

 「えっ?」

 

 「むかーしだけどね。 ガキの頃剣道やっててさ」

 

 「けんどー?」

 

 「ああごめん。 大雑把に言えば競技化されたチャンバラみたいなもんだよ」

 

 「ああ、レィーチェですね」

 

 「あ、うん。そうそうレィーチェレィーチェ。 んで、同世代の中で俺がダントツで弱かったんだよ」

 

 「ほぁ……」

 

 「けどあのときの俺は良くも悪くもバカでさ、一生懸命練習したらいつか勝てるって信じてめげずに練習したんだよ。 でもね、ちょっと練習したくらいじゃ簡単には勝てなかった」

 

 「それで、どうしたんですか……?」

 

 「練習したよ。 ひたすらに練習した。 そんときさ、他の連中は俺のこと指差し笑ってこう言うんだよ。 センスないだとか、どうせ勝てないのに、何をそんなに必死になってんだかっこわりーだとか」

 

 「……ッ」

 

 「似てるだろ? 今の君の話と。 でも俺は最終的に勝ったぜ。 俺より二回りも背の高い年上だったけど、必死に攻めて判定勝ちしたんだ」

 

 っと、いけない。つい昔の思い出にふけてしまうところだった。 しかしこんな会ったばかりの奴の過去話なんて聞かされても迷惑なだけだったかな。

 

 「わ、私もそんなふうになれますかっ?」

 

 おっと予想外。 思いの外真剣に聞いてくれていた。

 

 「もちろん。夢は逃げない、努力を続ければいつか叶うさ」

 

 「夢は、逃げない……!」

 

 どうして俺はこんな話をしたんだろう。

 

 結局俺はその後才能の壁を感じて剣道を辞めたんだ。

 このまま続けても一番にはなれないと諦めたのに、どうして俺はこんな……

 

 「なんか不思議な感じだなぁ……」

 

 「ん?」

 

 「あ、いえ…… どうしてこんな話しだしたのか自分でも不思議で、なんでかトートさんには話してもいいかなって思っちゃうんです」

 

 「言われてみれば、俺もこんな話誰かにしたの初めてだよ」

 

 「えへへ、もしかしたら私達相性がよかったりして」

 

 「ははっ、そうかもしれないね」


 

 そうこうしていると、メルの目的地である川の上流に到着。

 

 そこは激しい滝が流れていて、さっそく彼女は砥石になり得る原石を探そうと川の中へと入っていった。

 

 もちろん服を脱いだりはしない。このために濡れても大丈夫な装備をしてきたようだ。流石に背中に背負っていた武器やらは川岸に置いていたが。

 

 一方俺はあまり濡れるのはよろしくないわけだが、まあこれくらいの深さなら裾を捲ればどうとでもなるだろう。

 

 「俺も手伝うよ。 いったいどういう石がお目当てなのかな?」

 

 「ありがとうございます! タンチレア鉱が多く含まれているのが良いですね!」

 

 「えと、タンチレア鉱……?」

 

 「あ、すみません…… 名前だけ言ってもわかんないですよね! えっとそうですね…… 赤茶色の石がポイント高いです!」

 

 「赤茶色ね、了解」

 

 

 それから数十分、俺達は特に会話らしい会話を交わすこともなく黙々と採取作業を続けた。

 結果、充分に必要な量の原石が採れたが、その内俺が見つけられたのは僅か一個だけ。

 

 「ご、ごめん、あんまり役に立てなかったね……」

 

 「そ、そんな! 一緒に探してくれて楽しかったです!」

 

 うう、せいぜい十歳前後の女の子に気を遣われる高校生の悲しきことよ。

 さっきはアホの子なんて言っちゃったけどただ良い子なだけだった。なんだか自分が恥ずかしい。

 

 ……んで、これからどうしよう。

 

 目的が達成された以上、もう一緒に行動することは出来ないよな。かと言って向かうあても無いし……

 

 うーん、困ったなぁ。

 

 

 「あの、トートさん……」

 

 

 メルが何かを言いかけたしかしそのとき、水中から突然大蛇が現れる。

 

 さらには驚き怯んだメルに巻きついて、あっという間に拘束してしまう。

 

 「シャアアアアアアア!!!!」

 

 「キャアアアアアアア!?」

 

 よく見てみれば大蛇は右目に傷を負って興奮しているようだった。

 

 誰だよ大蛇なんて危険生物をこんな状態で放置した奴は……

 

 ……

 

 ……俺でした。

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