第16話 俺は情報屋に向かった


 店の名前はハーフキャット。

 

 店内に陳列されている雑貨は猫をモチーフにアクセサリーが多いようで、店の人間が猫を好いていることがよくわかる。

 

 他に客はいない。 なんというか、言い方は悪いが少し寂れた感じのある雰囲気の店。

 

 「いらっしゃいませだにゃー!」

 

 灰汁の強い店員のキャラクターを前に少し目眩を覚えるものの、俺は紹介状を取り出し単刀直入に本題を切り出した。

 

 「……教えて欲しいことがある」

 

 「にゃ……? あぁ、そっちのお客さんだったのにゃ。猫被って損したにゃ。 どうぞ、奥でゆっくりお話聞くにゃ」

 

 猫被ってたわりには語尾は取れないんだな。なんてツッコミは一応してはみたものの無視された。

 彼女は店の入り口の看板をOPENからCLOSEにひっくり返して奥の応接間へと俺を案内した。

 

 「それでいったい、お客さんはどんな情報をお求めなのかにゃ?

 向かいの家の浮気事情から気になるあの子のスリーサイズまで、ウチはなんでも取り揃えているにゃ」

 

 「オズワール商会について、全部」

 

 俺がそう言うと、ウィズミーの猫目の瞳孔が少しだけ締まる。

 

 「ほほう? お客さん見た目によらず度胸あるにゃ? 普通この街でアイツらのこと探る奴なんていないにゃ?」

 

 「だろうな。 けど俺は知りたいんだ。 金ならある、アンタが知っていること全部教えてくれ」

 

 そのとき、俺は十万カトラスが入った布袋を机の上に置く。

 ジャリンという音からして中に大量の金貨が詰まっているのは明白。それを相手も気がついたのだろうか、途端に目の色を変えた。

 

 「おほぉ~、 これは上客様の予感だにゃ~! いいにゃいいにゃ、聞かれたこと何でも教えちゃうにゃ~!」

 

 「ありがとう。それじゃあまず、奴らの背後にいる闇組織とやらについて教えてくれ。 いったいどういう連中なんだ?」

 

 「かしこまりましたにゃ! ……といってもそれについてにゃーが知っていることはほとんどないにゃ。

 わかっているのは、かなーりヤバい奴らってこと。 噂によると国に喧嘩を売れるほどの力を蓄えていて、近い内に動くかもしれないらしいにゃ」

 

 「組織の名前は?」

 

 「わからないにゃ。 わからなさすぎて、決して表社会には出てこないことと実体の掴み所のなさを言い例えて〈海月の群衆〉なんて界隈では呼ばれているにゃ」

 

 「〈海月の群衆〉…… それじゃあ次だ、その〈海月の群衆〉とオズワール商会との関係性は?」

 

 「そっちならちゃんと答えられるにゃ。 言うならば本体と末端。 オズワール商会は毎月売り上げの一部を組織に上納しているらしいにゃあ。

 なんでも商会の会長と組織の幹部の一人は古い付き合いらしいのにゃ」

 

 「それじゃあここら辺の店から回収している組合費なんかも?」

 

 「それだけじゃなく、剣闘技大会で得た金も組織に流れていることだろうにゃあ」

 

 「待てよ、それじゃあ丘の上に新しく闘技場を建てるっていうのは?」

 

 「どうやら海月から上納金ノルマの釣り上げ命令が来ているらしいにゃ。 だから連中ももっともっと金が必要で、今一番熱い剣闘技ビジネスを拡大させるために新しい闘技場を建てたいんだろうにゃ」

 

 論外だ。そんなことのためにメルは今翻弄されているというのか。

 生まれ育った工房を、犯罪組織の金のために失うなんてことがあっていいわけがない。

 

 「にしてもどうしてそんな連中取り締まられずに済んでいるんだ? この街にも警察とか憲兵とかいるだろう?」

 

 「警察というのはよくわかんにゃいけど、残念ながらこの街の憲兵団は腐敗が進んで完全に商会の傀儡と化してるにゃ」

 

 「マジかよ……」

 

 口では驚いたリアクションを見せるものの、内心はやっぱりなと思っていたりする。

 直感を信じて憲兵に頼らなくて良かった。 もしかしたら今頃捕まっていたかもしれない。

 

 「安心するにゃ、先日国の中央から調査が入ることになったにゃ。 商会の悪事が明るみになるのも時間の問題だにゃー」

 

 「そうか、それなら安心だな。 ありがとう、参考になったよ」

 

 「んにゃ、もういいのかにゃ? そーれにしても、この間のお客さんといい最近オズワール商会のことを嗅ぎ回る人が多いにゃー」

 

 「なに? 俺以外にも誰かいるのか?」

 

 「それがいたんだにゃー、三日くらい前だったかにゃ? 銀髪の綺麗なお姉さんがここを訪ねてきてオズワール商会について聞いてきたのにゃ。 あのチラリと見えた綺麗な装飾のついた細剣、あれは多分聖剣教会の人間だにゃー」

 

 銀髪の女性。 その特徴に俺は覚えがあった。あれは確か剣闘技大会で対戦した奴だ。

 

 まさかアイツが? いや、対戦後それっぽいことを口にしていたし十分あり得る話ではある。

 

 にしても聖剣教会? また知らないワードが出てきたな。何かの組織だろうか?

 

 「なあ、聖剣教会っていうのはいったいなんだ?」

 

 「にゃふ!? お客さんそれ本気で言ってるかにゃ!? 聖剣教会っていうのは世界連合管轄の聖剣管理組織のことにゃ!」

 

 「せ、聖剣っていうのは十二聖剣とかいう奴のこと……?」

 

 「そうにゃ! この世界に君臨する強大な力を持った十二の聖剣。 それを悪用されないために管理しているのが聖剣教会なのにゃ!」

 

 「で、でもちょっと待ってくれよ。 なんでその聖剣教会がオズワール商会を嗅ぎ回ろうとするんだ?」

 

 「おそらくは背後にいる海月が本命にゃ。 連中、どうやら聖剣を奪おうと画策しているかもしれないって噂にゃ」

 

 「仮にそんなことが起きたら?」

 

 「まあ戦争になるだろうにゃ。世界の均衡は崩れ、元々の聖剣の持ち主である国々がこれ見よがしに自衛のため聖剣を返せと抗議するに違いないのにゃー。 だから教会も何か起きる前に海月を壊滅させたいのにゃー」

 

 「なるほど、たった一つの武器で世界情勢が変化する。 まるで核兵器だな……」

 

 「んにゃ? かく?」

 

 「あっ、いやなんでもない。 でもその教会がこの街に来ているなんてこと俺に話してよかったのか?」

 

 「別に口止めもされてないし、あのお姉さんが教会の人間だというのはにゃーの推測でしかないのにゃ、だからいいのにゃー」

 

 「そうか、なら俺が今日ここに来たのは他の人間には言うなよ?」

 

 「そういうことならその、追加のお気持ちがありますとにゃ~?」

 

 「はぁ、わかったよ……」

 

 仕方なく俺は懐から数枚の金貨を取り出し指で弾いた。

 

 ウィズミーは獣が如く反応と俊敏さでそれをキャッチした。

 

 「んにゃ~! お客さん最高なのにゃ~!」

 

 「はいはい…… それで、その銀髪はまだこの街にいるのか?」

 

 「にゃ、今朝見かけたのにゃ。 倉庫街のほうに向かったのにゃ」

 

 「倉庫街、確か東の町外れだっけか?」

 

 「そうにゃ」

 

 「そいつからも話を聞いてみるかな。 それじゃ、俺はそろそろ行くよ」

 

 「まいどありにゃ! 今後ともハーフキャットをご贔屓ににゃー!」

 

 願うことなら二度と来たくねえよぼったくり。 まさか布袋に入ってた十万カトラス全部使うとは思ってなかったわ。

 

 ウィズミー曰く、倉庫街はオズワール商会の縄張りでもあるらしい。

 つまり何が起きるかわからない、もしかすれば戦闘なんてこともありえる。 ゆえに俺は気を引き締めそこに向かうのであった。

 

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