第13話 ちょっとくらい期待しても良いんだけど・・・。
<弥島心(やじま しん)視点>
家に帰ってきた僕は、自分のベッドに横になってニヤついていた。手には、今日、返された答案用紙。何度眺めても信じられない。
コツン!
窓に小石が当たった音だ。同時に僕の部屋の窓が外側から開かれた。閉じられたカーテンの間からヌーッと木崎初音(きざき はつね)の首だけが現れる。初音!お前は何時から妖怪になったんだ。僕は慌てて答案用紙を枕の下に隠した。
「心!今、何か隠したでしょ」
くっ。目ざといやつ。
「いやっ。何にも」
「絶対に隠した。そこに行くまで動くんじゃないよ」
制服姿の初音が窓に足をかけて、僕の部屋に入り込んでくる。スカートの中が丸見えなのに何時も隠そうとしない。恥ずかしくてこっちが目を逸らしてしまう。
「あっ!今、目を逸らした。いかがわしいことをしていた証拠だ」
「していないよ。そんな事!」
「嘘だ。中間テストが終わったばっかりなのに。嫌らしい!」
「だから、していないって」
「じゃあ、この枕の下にあるものは何かなー」
初音は僕を押しのけて枕に手をかけると一気に持ち上げだ。
「・・・?テストの答案用紙じゃん。さては赤点!」
「違うって!」
答案用紙を奪い返そうとする僕。ベッドの上で初音ともみ合いになる。
「あっ!」
「うぐっ」
手のひらにすっぽりと納まるムニッとした感触。これってまさか。僕は両手の先を見つめて静止した。やっぱり。
「初音ちゃん。大人になったねー!ンガッ」
グーパンチが飛んできた。ごめん。初音!冗談で切り抜けようとした僕がバカでした。
「えーーーーーー!心が英語で八十五点。ぎょえええーーーー!!すっ、す、数学が満点。そんなバカな。ありえない」
初音の顔が恐怖で引きつっている。瞳孔が開ききっている。
「そこまで驚かなくても・・・」
「だっ、大丈夫。心。熱でもあるの?それとも頭でも打ったの?心はね。こんな点数を取れるような子じゃないのよ」
今度は心配そうな顔でオドオドし始める。僕って初音にどんな風に見られていたのだ。イケメン偏差値35の僕でも、だんだん腹が立ってくる。
「俺だってやれば出来るって証拠さ」
「嘘だ。心だけ抜け駆けするなんて許せない!」
怒り出すんかい!初音のふくれた顔は意外とかわいい。表向き美少女偏差値70だけのことはある。だめだ、だめだ。騙されるな、弥島心。
「心、白状しなさい。変な薬とかやってんじゃないの?」
そうくるわけ?こいつの頭は一体どうなっているんだ。薬って何だよ。
「そんな薬は売ってないよ。僕だって受験生なんだから必死に勉強したんだ」
「どうやって。こんなの嘘だ。心だけは裏切らないと信じてたのに。心はさ。私と同じ白峯(しらみね)高校って決まってたのに・・・。ぶえーん」
初音が泣きながら抱きついてきた。最後は泣くのね。怒って、恐怖して、ふくれて、泣き出す初音。小学生から一歩も成長していない。残念ポイントマイナス30のギャップガールだけのことはある。あっ胸はちょっとだけ成長したけど・・・。
初音のしつこさは尋常じゃない。根掘り葉掘り、尾ひれを付けて聞き出されるくらいなら白状した方がましだ。僕は早くも観念する。
「ごめん。前原陽菜(まえはら ひな)さんと隠れて勉強した」
「・・・。陽菜ちゃんと!」
「うん」
「一緒に!」
「うん・・・。ンガッ」
初音の二発目のグーパンチが僕のみぞ内に決まった。
「何で、何でそうなんのよ。初音!初音はイケメン偏差値75のミラクルボーイ、遠藤和樹(えんどう かずき)が好きな訳で、僕が陽菜ちゃんと仲良くなったらライバルが減るってもんじゃないか。ち、違うの?」
初音の気持ちがさっぱり分からない。
「和樹くんは天才なんだよ!中学校を卒業したら当然、市内の進学校に進むじゃん」
「うん。それはそうだろうね」
「私はバカだから地元の白峯(しらみね)高校な訳よ。んで、和樹くんは都会のかわいくって頭のいい娘(こ)に行っちゃうわけよ」
「確かに」
こいつ。自分のことは思いのほか冷静に分析している。
「くっ。確かにって言うな。初音は独りぼっちじゃん」
「頑張って和樹と同じ高校を目指すとか」
「いゃあ。無理でしょ。初音だよ。心は私がバカだって知っているでしょ」
「僕だって頑張って中間テストの点を上げたんだから初音にだってできるよ。小学校の時はけっこう頭良かったじゃんか」
「じぁあ、私も混ぜてくれる」
身を乗り出す初音。近い。この距離は恋人同士の距離だ。僕は思わず一歩引いた。
「うん。喜んで」
「初音、頭良くなるかな?」
「うーん?」
「心のバカ。そういう時は励ますもんだろ!」
「じゃあ、指切りしょっか。一生懸命、頑張って勉強するって」
あれっ!なんで顔を赤くするわけ。指切り位で・・・。
「嘘ついたら・・・。初音の初めてを全部奪うつもりでしょ」
「はあっ。意味がわかりません」
「男の子ってみんなそう言うこと期待すんじゃないの?」
「してません」
「そうなんだ。心ならちょっとくらい期待しても良いんだけど・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます